uMIST東京代官山 斎藤恵介院長に聞く
日中、トイレに何度も行かざるを得ない頻尿は、男性ホルモンであるテストステロンの低下が原因の場合がある。テストステロンの低下では、尿道の刺激性が上がり、膀胱(ぼうこう)を収縮する筋肉も衰えるからだ。膀胱の拡張・収縮力が低下すると尿をためることができなくなり、尿意を感じやすくなる。
「膀胱の筋肉を直接鍛えることができなくても、膀胱を支えるインナーマッスルの骨盤底筋群を鍛えることはできます。ただし、骨盤底筋群は尿道括約筋や肛門拳筋(きょきん)など複数の筋肉で成り立っています。その鍛え方を間違えると、意味がないともいえます」
こう話すのは「泌尿器・日帰り手術クリニック uMIST東京代官山―aging care plus―」(東京都渋谷区)の斎藤恵介院長。
たとえば、次のようなケースは典型的だ。
60代のJさんは、1時間に1回は急な尿意を感じてトイレに行くようになった。長時間の会議はもとより、趣味の映画鑑賞のときも途中でトイレに行きたくなる。近所の泌尿器科で検査を受けて過活動膀胱と診断され、尿意を感じたときに少し我慢する膀胱訓練と、骨盤底筋体操を勧められた。肛門などを締めるように指導されたのだが、うまくいかない。
頻尿も治らないため、Jさんはメンズヘルスクリニックを受診することにした。そこで男性更年期障害と診断され、生活習慣の見直しや体操指導と同時に、ホルモン補充療法(TRT)を受けた結果、約3カ月後には頻尿が改善された。
「骨盤底筋体操として、いろいろな方法が提案されていますが、私は筋電図を使った研究で、PNF療法(血管促通療法)を基にトレーニングを開発しました」(斎藤院長)
PNF療法は、米国の医師と理学療法士が共同開発したリハビリ技術のひとつで、自分の体が本来持っていた運動機能を引き出す。
それを応用した斎藤院長の新しい骨盤底筋体操のひとつ「110度スクワット」をご紹介する。
①両足を肩幅より少し開いて立ち、胸骨と恥骨がまっすぐ一直線になるように姿勢を正し、胸の前で両腕を組む
②ゆっくりと腰を下して膝が110度程度(軽く曲げるようなイメージ)で止める。ポイントは、このとき足の小指に力を入れて床を押すこと
③腰をゆっくり上げ①の位置に戻す。①~③を10回繰り返して1セット
「1日1セット行うだけで骨盤底筋群は鍛えられます。萎縮・退縮した筋肉を動かすことで、血液や神経の流れがよくなり筋肉量も増えます。慣れてきたら、腕を組んだまま上半身を左右にねじると運動強度が上がります。スクワットをしながら小指に力を入れることで、太ももの内側の筋肉の収縮が強調され、骨盤底筋群の収縮を促します」
筋トレのスクワットは腰を曲げたときに膝が90度になるよう指導される。しかし、骨盤底筋群を鍛えるときには、それほど深く腰をおろす必要はないそうだ。
「患者さんの状態に合わせた鍛え方や生活習慣の見直しで、いくつになっても男性更年期障害や頻尿などのお困りの症状は改善できます。諦めないようにしましょう」と斎藤院長は話す。 (取材・安達純子) 【発売中の「健活手帖37号」でも男性更年期障害の克服術を特集しています】
■斎藤恵介(さいとう・けいすけ) 「泌尿器・日帰り手術クリニック uMIST東京代官山―aging care plus―」(東京都渋谷区)院長、順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科講師。静岡県立がんセンター、帝京大学附属病院泌尿器科講師、ハーバード大学留学、順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科准教授などを経て2023年7月から現職。著書に『頻尿・尿もれがみるみる改善する食べ方大全』(文響社)。