2月に七代目三遊亭円楽を襲名する。師匠は〝星の王子様〟といわれ、落語界のトップに君臨した五代目圓楽さん(2009年死去、享年72)。兄弟子の六代目円楽さん(22年死去、享年76)は〝腹黒キャラ〟といわれたが、実は兄貴肌で世話好きだった。
「今は忙しく動き回っているのでプレッシャーを感じる暇はないですが、お披露目の落語会で『円楽』のめくりをみて高座に上がった時、怒濤のように緊張と実感が湧いてくるんでしょうね」
七代目襲名の話を受けたのは一昨年の暮れ。六代目のおかみさんが、父の三遊亭好楽を自宅に招き、六代目の言葉として「〝王楽君に円楽を〟ということだから、もしよければ…」と伝えられた。荷が重かったが引き受けた。
「時期尚早かとも思いましたが、区切り(六代目の七回忌)までいくと円楽の名前が忘れられてしまうおそれがあると思い、自分の中でアクセルを踏みました。円楽の名前は全国的に知らない人がいないくらいポピュラーでビッグ。五代目、六代目が命を懸けて大きくしたこの名前を小さくしないようにしないと」
父・好楽から「自分の愛した人のところへ行きなさい」
実はもともと落語に興味があったわけではない。落語家の家に生まれたが、落語は聴くこともなく、趣味は読書と映画鑑賞。落語との出合いは大学1年の時だった。
「子供の頃は人見知りでおとなしく、学校でも地味な存在でした。父親がテレビに出ているのがイヤで『笑点』のテーマソングは聞きたくなかったくらい。(三遊亭)円橘師匠の独演会のゲストが映画評論家というので見に行き、失礼ながらついでに聴いた円橘師匠の落語が初めてでした」
この一席でどっぷりとハマり、自宅にあった落語のテープやビデオを片っ端から聞いた。寄席にも通いつめ、大学4年の頃には落語家になることを決めていた。
「卒業間際、父親がソファで新聞を読んでいるとき、正座で『誰に弟子入りするかは決めていませんが、落語家になりたいんです』と言うと、父は『(落語)協会でも芸協(落語芸術協会)でも立川流でもいいから、自分の愛した人のところに行きなさい』と決断を尊重してくれました」
2カ月で二十四孝、たらちね、子ほめ、野ざらし、花筏…
五代目の最後の弟子
五代目の27番目、そして最後の弟子となった。入門が許されて3日後、五代目の自宅に訪問すると、いきなり大ネタ「二十四孝(にじゅうしこう)」を教わった。
「必死に覚えて10日後に噺を直してもらうと、次はすぐに『たらちね』。その後は『子ほめ』『野ざらし』『花筏』とわずか2カ月で10席もの噺を稽古してもらいました。そして『私の癖がつくといけないからよそに行きなさい』と言われましたが、教えるのに飽きたんでしょうか(笑)」
五代目は当時68歳。きっと孫のようにかわいかったのだろう。
「入門してまだ間もない頃、『努力を続けられる人。それが天才だ』という言葉をいただいたことも思い出します。他界されたときは心の柱を失った気持ちでした。豪快な師匠の魂が好きです」
六代目がこの世界で一番怖い方でした。初めてのアドバイスは震えるほどうれしかった
六代目からは前座時代に「落語なんぞはどうでもいいから気を遣え」と作法を教わった。
「お茶の出し方から着物のたたみ方まで一挙手一投足すべて直してくださった。この世界で一番怖い方でした」
叱られまくったが期待もされていた。
「二つ目に昇進したての頃ですかね。落語に対して初めてアドバイスをいただいたときは震えるほどうれしかったです。真打ちになってからも耳の痛いことを言っていただき、晩年まで僕の落語を見ていただいた。ダメ出しや小言が今ではズシンと心にしみています」
円楽は代々「笑点」(日本テレビ系)に出演しているが…。
「レギュラーで(好楽と)親子共演という野望はありませんし、こればかりはご縁ですから」
伸びやかな感性、現代的な語り口が持ち味で、持ちネタは200を超える。どんな七代目になっていくのか。
「新しく色を付けていくのは自分自身。メディアにはどんどん出ていきたいですし、役者もやってみたい。NHK大河ドラマに出たら、何か落語に反映されるんじゃないかな。いろいろなことに挑戦して突き抜けていきたいですね」
名跡のバトンが受け継がれる。
■三遊亭王楽(さんゆうてい・おうらく) 落語家。1977年11月7日生まれ、47歳。東京都出身。駒澤大学文学部英米文学科卒業後、2001年、五代目三遊亭圓楽に入門。前座名「王楽」として27番目かつ最後の弟子に。04年、二つ目昇進。08年に「NHK新人演芸大賞落語部門」で大賞を受賞。09年、真打ち昇進。25年2月、七代目三遊亭円楽を襲名する。父の三遊亭好楽は兄弟子。
2月26日~襲名披露興行
豪華ゲストが花を添える襲名披露興行は2月26日~3月2日(1日は2公演)、東京・有楽町よみうりホール。問い合わせは夢空間(0570・06・6600)。
その後、神奈川・相模女子大学グリーンホール(3月16日)、大阪・サンケイホールブリーゼ(6月15日)など15都市で全国ツアーを7月まで行う。
(ペン・高山和久/カメラ・寺河内美奈)