11月5日に実施された米大統領選は、共和党のドナルド・トランプ氏の勝利で幕を閉じた。開票直前まで民主党のカマラ・ハリス氏との接戦が報じられており、過去の選挙を振り返ると結果が出るまで数日かかるという報道も多かったが、いざ蓋を開けてみればトランプ氏の圧勝が即日報じられた。
日本人にとってはこの結果が日本経済にどのような影響を与えるのかに関心が向くわけだが、為替相場の先行きに目をやると、トランプ氏が勝利した場合は「円高になる」という意見と、「円安になる」という意見で割れている。
円高説の論拠は2つあると考える。1つはトランプ氏が過去に「対円での強いドルは問題」や「米国製品の輸出にとってドル高はとてつもない障害」などドル安志向をにおわせる発言を何度もしていることから、日本政府への通貨安抑制を要求してくると予想されることだ。もう1つは、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の再任を認めずに、ハト派の議長を指名する可能性があるということだ。
一方で、円安説の論拠は次のようなものだ。トランプ氏が掲げた主な政策を見てみると、追加関税措置、減税政策、移民抑制など軒並みインフレを加速させる政策が多く、インフレ問題が再燃すれば9月から利下げ局面に突入したFRBが利下げペースを鈍化させたり、一時停止することも考えられ、場合によっては再度利上げ局面入りすることもある。
このように為替ひとつとっても、トランプ氏の勝利による影響は専門家の間でも意見が真っ二つに割れるわけだが、筆者は専門ではないがアジア圏における地政学リスクの高まりを今後の経済予測における大きな変数として掲げたい。
トランプ氏は従前からウクライナ戦争を早々に終わらせることが可能だと主張してきた。思い返せば、ウクライナ戦争が始まる数カ月前、バイデン米大統領は「ロシアがウクライナに侵攻した場合、米軍を派遣しない」と語り、筆者はこの発言は逆にロシアの侵攻確率を高めたのではないかと指摘したことがある。
トランプ氏は「中国が台湾侵攻した場合、軍事力は使用しないが、150~200%の関税をかける」と発言した。この発言は台湾侵攻の確率を高めるかもしれないと懸念する。経済合理性で考えれば高関税を避けるために侵攻しないとなるが、独裁者に経済合理性など関係はないからだ。
目先では為替やインフレなど経済データが気にはなるものの、個人的にはこのアジア圏における地政学リスクに注目している。
森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。