2008年のクリスマスイブ(12月24日)。中森明菜は前年の「艶華~Enka~」に続き、フォークの名曲を集めた「フォーク・ソング」を発売した。サブタイトルは「歌姫抒情歌」で、フォークの名曲を切々と歌っている。そこで今回は当時、明菜が筆者に語ったアルバムへの思いを記す。
◇
「歌姫」というカバー企画をやってきてセルフカバーも含めて4枚のアルバムを出しました。多くの方に喜んでいただける結果を残せたと思います。そして「艶華~Enka~」で大きな挑戦をしました。千住明さんと何度も打ち合わせをして…。オリジナルの方のものまねにならないように、何よりも明菜色に染められるように、試行錯誤しました。その結果が「日本レコード大賞」(企画賞を受賞)や「日本ゴールドディスク大賞」(ゴールドアルバム認定)という形でみなさんに支持していただけるものとなりました。
そういった流れを踏まえ、今まで挑戦していなかった切り口でフォーク・ソングを選びました。巷ではフォーク・ソングが注目されていると聞いています。私のファンの方や、もう少し上の年代の方にはギターを弾きながら歌った方も多いのではないかと思います。
私のアルバムを聴いて、昔を思い出してノスタルジックになっていただくもよし、単純に曲の素晴らしさを堪能していただくもよし、こんな世の中なので聴いた後に元気になってもらえればそれだけでうれしいです。ですから、原曲のイメージ通り懐かしく、新しく聴いていただけるアレンジにしました。
選曲はスタッフとも話しながら選んだ200曲くらいを聴き直し、最終的にデビューから私のことをプロデュースしてくれている寺林晁さん(当時のユニバーサル ミュージック執行役員マーケティング・エグゼクティブ)に「この曲を歌うのが皆さんの心に一番響くのではないか」という観点から選曲していただきました。さすが、寺林さんは私のことを16歳の頃から見守っていただいているだけあって、皆さんが口ずさんでいただけるような大好きな曲ばかり選曲していただけたと思っています。
ただ聴いていいなぁと思う曲と、歌ってしっくりくる曲は別なこともあるので、レコーディングの後はスタッフとカラオケに行ったりして盛り上がったりもしましたね(笑)。
ただ、レコーディング時には、歌詞の世界に入ってしまい、思わず涙があふれてくる場面が何度もありました。なので、できるだけ淡々と歌いました。どの曲も情景が浮かんでくる素晴らしい歌詞ばかりでした。
カバーアルバムのレコーディングはどれも大変でした。だけど、このアルバムが一番、スムーズに進んだかもしれません。もちろん、全曲聴きなじみのあるものばかりでしたし、小さな頃に母親や兄妹が歌っていたりラジオやレコードで聴いていたりしたので体にしみ込んでいたからだと思います。6人兄姉の下から2番目なので兄妹の聴いている音楽は今でも覚えています。あとレコーディング自体が久しぶりだったことで楽しかったせいもあると思います。
いつもは立ってボーカルレコーディングをすることが多いのですが、今回は全曲、座って録ったことも特徴かもしれません。そのほうが歌に説得力が出たので。DVDにはレコーディングの模様を収録しました。
アレンジはギタリストでアレンジ/プロデュースができる方と思い、鳥山雄司さんにお願いしました。鳥山さんには「華―HANA―」や「艶華~Enka~」の「無言坂」「悲しい酒」でお世話になってきました。ただ、なかなかスケジュールが合わなくて結局、鳥山さんのアレンジは松山千春さんの「恋」だけになりましたが、古池孝浩さん、市川淳さん、酒井ミキオさん、山田正人さん、清水俊也さんら素晴らしいアレンジャーの方々をご紹介いただき、トータルで監修するサウンド・アドバイザーという形でご参加いただきました。ですからオリジナルなイメージを損なわずに新しい作品になったと自負しています。 (芸能ジャーナリスト・渡邉裕二)
■中森明菜(なかもり・あきな) 1965年7月13日生まれ、東京都出身。81年、日本テレビ系のオーディション番組「スター誕生!」で合格し、82年5月1日、シングル「スローモーション」でデビュー。「少女A」「禁区」「北ウイング」「飾りじゃないのよ涙は」「DESIRE―情熱―」などヒット曲多数。NHK紅白歌合戦には8回出場。85、86年には2年連続で日本レコード大賞を受賞している。