Infoseek 楽天

久住昌之 するりベント酒 東北新幹線で旬の弁当ビールを堪能す 少しずつ東京を離れながら考える 中華丼のウズラいつ食べるに似た「永遠の命題」

zakzak by夕刊フジ 2024年9月22日 10時0分

このところ地方出張の仕事が続いた。これも新幹線移動時に買った弁当。今回はちゃんと(?)ビールのアテに弁当だ。

これは岩手の大船渡に新幹線で行く時に、東京駅で買った。「錦秋(きんしゅう)」。栗おこわ弁当だ。二文字の弁当名が新鮮。

仕事場の近所のサミットストアだったら「旬の和栗が香る栗おこわ五色弁当」とかになっただろう。

おこわ久しぶり。嫌いではないが、あんまり買わない。今回、あえて買った。あえて買うと、それはそれで楽しいのがおこわだ。ボクの中で、赤飯と同じ箱に入っているのかもしれない。餅米だしね。

そう言う気持ちで蓋を開けると……いいじゃないの、見た目にコンパクトに賑やかで。栗は小さいのが一粒入っているだけなれど、存在感デカし。これ一粒で、弁当景色が秋である。花形に切ったニンジンも彩りを添えているが、できれば紅葉の形に切って欲しかった。なんて小文句。こういうこと下手に書くとネットで、

「孤独のグルメの作者、駅弁に苦言を呈す」とか書かれてしまう。気をつけねば。

缶ビールをプシュっと開ける。ゴクリと飲む。うまい。まだ列車は上野を過ぎたばかりだ。今これひと缶飲んだだけなら、盛岡に着く頃はほろ酔いも醒める。

さて、まずは割り箸で栗おこわ単体を掴み取って食ってみる。

うまい。これはおいしい。味がいい。うれしくなる。この、おこわの上にのった緑の茎的なものはなんだろう。なんの茎。思いつく野菜がない。包紙の内容表示を見る。なぜかカンニングの気分。あ、せり漬け。セリ。へぇ。食べる。そんな感じもする。セリ鍋のセリの香りはほとんどしない。ほぼ歯応え要員。でも悪くない。苦言は呈さない。

レンコンを半分かじる。うんうん。味、する。セリ漬けと共におこわ食べる。実に具合がよろしい。

ビールをグビリとやる。風景を見る。少しずつ東京を離れていくのがわかる。これがいい。小さな鶏照焼きを箸でとって、口に持っていって、半分かじって戻す。うまい。飲み込んでビールをひと口追っかける。やっぱり焼き鳥はビールに合う。無意識に大切に食べている。

弁当向かって左上はサツマイモ、シイタケ、インゲン、ニンジン、がんもどきの煮物コーナー。昔は田舎料理、だったが今はヘルシーなビーガン料理だ。ものは言いようだ。

時代の大衆は勝手である。ひと昔前は肉の代用品で、どっちかって言うとダサいビンボー食品だった魚肉ソーセージも、今やフィッシュソーセージとして若い女性に好かれている。

おこわ、ますますおいしい。勿体ぶらずに栗を食べる。最後まで残すのは貧乏臭い気がする。ならばいつ食べるかだ。最初に食らいつくのもみっともない気がする。

中華丼にひとつ入った茹でたウズラの卵をいつ食べるか、という永遠の命題に似ている。なんて考えながら、ビールを飲む。そして車窓を眺める。

駅弁ビールの列車旅を堪能している俺がいる。食べ終わったら少し寝るつもりだ。

(マンガ家、ミュージシャン)

この記事の関連ニュース