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江崎道朗 国家の流儀 国家シギント機関の創設こそ急務 通信、電気信号などを傍受・解読する情報収集 「インテリジェンス重視」を打ち出した岸田政権

zakzak by夕刊フジ 2024年8月24日 15時0分

戦後初めて、国家戦略として「インテリジェンス重視」を打ち出したのは岸田文雄政権であった。

2022年12月、国家安全保障戦略を全面改定し、防衛力の抜本強化に踏み切った際、「急速かつ複雑に変化する安全保障環境において、政府が的確な意思決定を行うには、質が高く時宜に適った情報収集・分析が不可欠である」としてインテリジェンス重視を打ち出したのだ。

敗戦後の日本は、軍事やインテリジェンスをタブー視し、ある意味、米国に従って生きてきた。

しかし、第2次安倍晋三政権になって、13年に独自の国家安全保障戦略を策定し、「自分の国は自分で守る」精神に基づいて外交、経済だけでなく、軍事やインテリジェンスも使って米国以外の国とも関係を強化し、「自由で開かれたインド太平洋」を実現しようとしている。

この動きに呼応するかのように、防衛省のシンクタンク「防衛研究所」が22年9月14日、戦後初めてインテリジェンスをテーマにした戦争史研究国際フォーラムを開催した。

カナダ・カルガリー大学のジョン・フェリス教授が「シグナル・インテリジェンスと日本の安全保障」と題して、注目すべき報告を行っている。

いわく、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦での西側の勝利を支えたのは、英国の国家シギント機関による「通信傍受」(音声・高周波・超高周波によるモールス信号の傍受)だったというのだ。

スパイなど、人による情報収集をヒューミントと呼び、その代表的機関としては米国のCIA(中央情報局)が有名だ。一方、通信、電気信号などを傍受・解読する情報収集をシギントと呼び、担当する国家機関として米国ではNSA(国家安全保障庁)、英国ではGCHQ(政府通信本部)が存在する。この米英を中心とした国家シギント機関のネットワークが、いわゆる「ファイブ・アイズ」だ。

そして、フェリス教授によれば、国家シギント機関こそが、2つの世界大戦における連合国の勝利を支えただけでなく、《日本は日露戦争の日本海海戦においてシギントの有効活用によって一定の成果をあげた》という。しかも、その日本も先の大戦ではシギントの有効活用に失敗し、米国に《敗北した》がそうした反省がないためか、シギント軽視はいまなお続いていると警鐘を鳴らしている。

確かに、インテリジェンスというと、日本版CIAやヒューミントばかりが論じられ、シギント、つまり通信傍受による情報収集や日本版NSAの必要性はほとんど論じられてこなかった。

日本がインテリジェンスでも米英諸国と本格的に連携しようと思うならば、自衛隊のシギント機関を発展・拡大して本格的な国家シギント機関を創設すべきなのだ。

なお、この国家シギント機関やファイブ・アイズについて解説すべく、このほど元内閣衛星情報センター次長の茂田忠良氏との共著『シギント―最強のインテリジェンス』(ワニブックス)を上梓した。

■江崎道朗(えざき・みちお) 麗澤大学客員教授・情報史学研究家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や国会議員政策スタッフなどを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究などに従事。「江崎道朗塾」を主宰。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞、23年にはフジサンケイグループの「正論大賞」を受賞した。著書・共著に『シギント―最強のインテリジェンス』(ワニブックス)、『ルーズヴェルト政権の米国を蝕んだソ連のスパイ工作』(扶桑社新書)、『日本の軍事的欠点を敢えて示そう』(かや書房)など多数。

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