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マネー秘宝館 「時間の奪い合い」が始まった スマホが変えた情報過多時代の新常識 様々なサービスが無料の時代、足りないのはお金より時間

zakzak by夕刊フジ 2024年10月2日 11時0分

「いつか読むだろう」と山積状態になっている本。いわゆる積ん読(つんどく)状態というやつ。あまりに山が高くなりすぎたので整理を決意しました。

「積ん読」というのは若さの表れです。なぜならそこに「いつか読める日が来るだろう」という未来への期待が存在するからです。現在の貧乏暇なしからいつか脱して時間を獲得し、「ゆったり本を読める」ときがきっとくる。そのときのためにこの本をとっておこう…そんな切なる願いを込めて積まれるのが積ん読本なのであります。

しかし、私のような年齢になると分かってくるのです。「そんな日はこない」ということが。数年間放置していた本をこの先に読むことはまずなさそうです。この先も「新しくて・刺激的で・読む必要のある」本はどんどん出てくるだろうし、また数年先も「忙しい忙しい」と愚痴りながら働いていると思われる自分。

そして何より改めてパラパラめくると10年前の本に書かれている内容の古いこと。正直その陳腐化ぶりに愕然とします。わたしたちはとんでもなく移り変わりの速い時代を生きています。

なかでもビジネス書の陳腐化ぶりはすさまじいですね。それはそうでしょう。これだけ「モノあまり」になってしまうと「モノづくり」は低価格になってしまって儲かりません。ならばと「情報・サービス」へ雪崩を打ってシフトが起こり、こちらでも供給過剰が発生。あらゆる情報がタダで提供され、さまざまなサービスが無料になってきました。

こで起こっているのがお金の取り合いならぬ時間の取り合い現象です。今の世の中、ライバルに勝つためには「顧客の時間の奪い合い」に勝利せねばなりません。

私の身の回りでいえばイベント、セミナー、講義講演などの「集客」が一様に不調になっていました。コロナ後、一気にイベントなどが増えたこともあって「時間の奪い合い」が生じているようです。スマホで手軽に情報が手に入る世の中、お金と時間を使ってイベント&セミナーに足を運んでもらうことが難しくなってきます。

私の感覚では「お金と時間」のなかでも、後者の「時間」の希少性がどんどん高まってきたように感じます。いまや時間はレアメタル並みの希少資源。

若い人から初めて「タイパ」という言葉を聞いたときは「コスパならぬタイパ、そんなバカな」と思いました。しかしスマホが当たり前で「情報積ん読」な時代を生きる彼らにとって、足りないものはお金ではなく時間なのです。

いまの大学生たちは口をそろえて「忙しい」と言います。これが昭和から令和でもっとも変化したことかもしれません。昭和の頃、大学生だった私は「ヒマ」でした。ヒマだから麻雀をやるメンツを探し(すぐ見つかった)、本を読み、そして音楽を聴いていました。

朝起きて「あ~あ、今日もヒマだな、金がないから本でも読むか」。そんな風に感じていたあの日、いま思えばなんとぜいたくだったことか。

■田中靖浩(たなか・やすひろ) 公認会計士、作家。三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社勤務を経て独立開業。会計・経営・歴史分野の執筆・講師、経営コンサルティングなど堅めの仕事から、落語家・講談師との共演、絵本・児童書を手掛けるなど幅広くポップに活躍中。「会計の世界史」(日本経済新聞出版社)などヒット作多数。

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