ドナルド・トランプ次期米大統領の就任式(20日)が近づいてきた。同盟国を含めた関税引き上げや、デンマーク領グリーンランドの購入、中米のパナマ運河返還などの独自政策が注目されているが、NATO(北大西洋条約機構)加盟国の国防費を「GDP(国内総生産)5%に引き上げるべきだ」という主張も見逃せない。日本をはじめ、NATO以外の同盟国にも防衛費増額を求めてくるのは必至だからだ。石破茂政権は就任式に岩屋毅外相を派遣する方針だが、トランプ政権と信頼関係を築き、防衛費のさらなる増額について与党や財務省を説得できるのか。麗澤大学客員教授・情報史学研究家の江崎道朗氏の集中連載第1弾―。
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1月20日、トランプ氏が第47代米大統領に就任し、第2次トランプ政権が発足する。果たして、石破茂政権で渡り合えるのか。
喫緊の課題は、防衛費増加問題になろう。トランプ氏は7日、NATOの加盟国に対し、防衛費をGDP比5%に引き上げるべきだという考えを示した。
ロシアの軍事的脅威に直面しているヨーロッパ諸国は、ウクライナ軍事支援を米国に頼っているだけでなく、もっと多くの負担をすべきだということだ。
実は2014年、NATOは24年までに防衛費をGDPの2%以上に引き上げる目標を設定したが、この目標を達成している加盟国は32カ国中23カ国にとどまっている。
このため、NATOのマルク・ルッテ事務総長は、現在の防衛支出が将来のロシアとの紛争に備えるには不十分であると警告した。冷戦時代には、欧州の加盟国がGDPの4%を防衛に充てていたことを引き合いに出し、より高いレベルの支出が必要であると強調している。
NATOは現在、30年までに3%への引き上げを検討しているが、トランプ氏は5%まで引き上げろと要求したわけだ。
では、当の米国はどうなのか。
ジョー・バイデン民主党政権下の24年度の米国の国防費は約8420億ドル(約133兆円)で、GDP比で約3%だ。米国議会が昨年12月18日に可決し、バイデン大統領が23日に署名・成立した国防権限法によれば、25会計年度の国防予算の総額は8950億ドル(約141兆円)と、過去最高額だ。米国も国防費を懸命に増やしている。
では、日本はどうか。
22年12月、当時の岸田文雄政権は27年度までに防衛費をGDP比2%に引き上げる中期目標を設定し、24年度の防衛関連予算の合計は約8兆9000億円、GDP比で約1・6%にあたる。米国やNATOに比べると、あまりにも少ない。
よって、トランプ次期政権はこれまで以上の防衛費を要求してくるだろう。日本では「トランプ政権から言われるので、仕方なく防衛費を増やさないといけない」みたいな議論があるが、中国などの脅威に直面しているのは日本だ。米国から言われて防衛費を増やすという発想はおかしい。むしろ、日本も米国と同じGDP比3%を目指すべきだ。
ただ、GDP比3%といえば約18兆円で、現状よりも9兆円近く増やさないといけないことになる。問題は、それでなくとも党内基盤が弱い石破政権が、果たして自民党内の緊縮派や公明党、そして財務省を説得できるのか、ということだ。
このままだと、トランプ政権と財務省に挟撃され、石破政権は立ち往生することになるだろう。
■江崎道朗(えざき・みちお) 麗澤大学客員教授・情報史学研究家。1962年、東京都生まれ。国会議員政策スタッフなどを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究などに従事。「江崎道朗塾」を主宰。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞、23年にはフジサンケイグループの「正論大賞」を受賞した。著書・共著に『シギント―最強のインテリジェンス』(ワニブックス)、『日本がダメだと思っている人へ』(ビジネス社)など多数。