日銀の氷見野良三副総裁は14日の記者会見で、23、24日に開く金融政策決定会合で「利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したい」と話した。植田和男総裁も15、16日に同様の発言をしている。
本コラムで、日銀は植田総裁の任期中に、政策金利を「中立金利」とされる2%程度まで引き上げたい意向だと推測した。任期は2028年4月までで、あと26回の政策決定会合があるので、植田総裁は金利の正常化を自分のレガシーにするためには、任期中に3~4回に1回の割合で利上げスケジュールを練っているのではないか。となると、25年は2回ぐらいできればいいとなる。
そのうえで、日銀としては、米ドナルド・トランプ政権の「円高ドル安」要求など「外圧」を使うのが無難だと考えているのではないかとして、25年後半がヤマとみていた。
しかし、これは甘かったようだ。日銀は筆者の予想以上に前のめりだ。25年に予定されている8回の政策決定会合中、2回ではなく、3回利上げしたいのではないか。そこで手始めに、副総裁が観測気球を上げたとみられる。
副総裁は大蔵省(現財務省)出身ということもあり、石破茂首相(総裁)の自民党と野田佳彦代表の立憲民主党との間で、「増税大連携」の可能性があるのを承知しているだろう。その場合、「社会保障改革」という名目で議論が進み、消費税増税の話は夏の参院選前には出てこない。年後半になると増税の議論が出てくるかもしれないので、できるうちに利上げしたいと思ってもおかしくない。
政策決定会合は1月23、24日の後、3月18、19日にある。ただし、1月24日は通常国会の召集に加え、25年度予算案も国会提出される。さすがに国会の初日に日銀が利上げをぶつけるのはいかがなものかということになる。こう考えると、今回の「利上げ発言」は観測気球で、3月18、19日の決定会合が当面の利上げの本命だろう。この時期になれば当年度予算案成立のめども立って、国会審議への悪影響も少ないとの読みもある。
インフレ目標政策からみれば、中央銀行が利上げを遅らせる「ビハインド・ザ・カーブ」の原則から、インフレ率が「2%を超えたら利上げ」ではなく、「4%を超えたら利上げ」だろう。欧米の経験を見ても、それまでは利上げしないというのが正しい。
昨年11月の消費者物価指数は、総合指数は前年同月比2・9%の上昇、生鮮食品を除く総合指数は同2・7%の上昇、生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は同2・4%の上昇だった。どれをとっても利上げする環境ではない。
名目5%成長のためにはインフレ率を2~4%にすればいいが、日銀は利上げばかり考えて日本経済のことを考えていないように筆者には思えて仕方がない。その上、財政が悪くないのに、隙あらば増税をもくろむ財務省がいる。GDPギャップ(潜在的な供給力と実際の需要の差)をなくすような積極財政をすればいいだけだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)