デビュー25周年迎えた2006年、中森明菜は4月から放送された日本テレビ系のドラマ「プリマダム」(主演は黒木瞳)に出演した。やはり日本テレビ系で放送された「ボーダー 事件心理捜査ファイル」(1999年1月~)に主演して以来、7年ぶりとなる連続ドラマだった。
同ドラマのエンディング曲は明菜の新曲「花よ踊れ」に決まり、46枚目のシングルとして発売(5月17日)された。さらに、その1カ月後の6月17日には3年ぶりとなるオリジナル・アルバム「DESTINATION」もリリースされ、広島から全国ツアー「The Last destination」もスタートした。
「この年の明菜は歌にドラマにコンサートにと精力的でした。しかもパチンコメーカーの大一商会から明菜をモチーフにしたパチンコ台『CR中森明菜・歌姫伝説』まで登場するなど、話題も絶えませんでした」(音楽関係者)
ツアーは8月8日の東京・有楽町の東京国際フォーラム(同公演の模様はDVD化)まで7都市を回ったが、明菜は「大ホールでのコンサートは最後にする」と決意していた。
「大きなホールのコンサートでは(自分の)歌を伝えきれない」
歌に対して完璧主義者だった明菜は、自らのステージにジレンマを抱えていたのかもしれない。
ある関係者は「2005年の品川プリンスホテル・クラブeXでのライブの成功が最終的に明菜の背を押したのだと思う」という。
いずれにしても、明菜にとっては「有終の美で締めくくるコンサート」にしたかったはずだ。「花よ踊れ」で幕を開けると「The Heat~musica fiesta~」「月華」「落花流水」など、前半は比較新しい曲を中心にまとめ、後半は「TATTOO」や「飾りじゃないのよ涙は」から「ミ・アモーレ【Meu amore…】」「少女A」などヒット曲で構成するなど「中森明菜の世界」を余すところなく描き切っていた。
ツアーを成功裏に終えた明菜が心機一転にスタートに選んだのが、谷村新司が書き下ろした山口百恵の名曲「いい日旅立ち」のカバーだった。
この年の10月7日公開の映画「旅の贈りもの/0:00発」の主題歌だった。シンガー・ソングライターの徳永英明が初主演だっただけに「明菜と徳永という当時、カバーアルバムで一世を風靡した組み合わせも大きな話題でした。しかも明菜が映画主題歌を歌うのは初めてのことでした。それにしても2人ともユニバーサルでは(明菜の育ての親として知られてきた)寺林晁さんがプロデュースしていたので納得でしたが、それにしても異例のコンビでの映画でした」(音楽関係者)。
「いい日旅立ち」は、1978年に山口百恵が歌って大ヒットした名曲。しかも映画の主題歌で明菜がカバーすることに、百恵は「明菜さんに歌ってほしいと思っていた。明菜さんで蘇るなら最高にうれしい」と異例のコメントまで出した。さらに百恵の音楽プロデューサーだった酒井政利氏も「名曲は歌い継がれてこそ、新しい生命が宿る。明菜さんはアイドル発の歌手の中でも抜群のボーカリストとして認知されている。その明菜さんがカバーすることに百恵さんが喜ぶのは当然でしょう」と語っていた。
そんな「いい日旅立ち」を歌うことに明菜も大ノリだった。
「百恵さんの曲は子供の頃から大好きでよく聞いていました。あの歌唱力とテクニックは子供が歌うには難しすぎて、うまく歌えなかった思い出があります。そんな百恵さんの曲を歌うことは、私にとって大きなチャレンジです。映画の主題歌ともどもみんなに聞いていただけたらうれしい」と目を輝かせていた。
ちなみに同映画はJR西日本などが製作したもので「真夜中を告げる0時00分に大阪駅から発車する不思議な列車の物語でした。さまざまな悩みを持った人々が行き先不明の臨時列車に乗り、幻の港町〝風町〟で心を癒やし、再生していくハートフルなロードムービーでした」(映画関係者)。 (芸能ジャーナリスト・渡邉裕二)
■中森明菜(なかもり・あきな) 1965年7月13日生まれ、東京都出身。81年、日本テレビ系のオーディション番組「スター誕生!」で合格し、82年5月1日、シングル「スローモーション」でデビュー。「少女A」「禁区」「北ウイング」「飾りじゃないのよ涙は」「DESIRE―情熱―」などヒット曲多数。NHK紅白歌合戦には8回出場。85、86年には2年連続で日本レコード大賞を受賞している。