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安倍晋三元首相 三回忌 政治学者・岩田温氏 わが国の国益、アイデンティティーを守り抜く 現実主義と理想主義を併せ持っていた…傑出した宰相

zakzak by夕刊フジ 2024年7月15日 10時0分

終戦後、焼け野原となった日本を復興するために尽力したのが吉田茂元首相だった。貴族主義的で傲岸(ごうがん=威張っていること)とした指導者であったが、吉田氏は間違いなく有能な総理大臣だった。

だが、戦後日本が奇跡的な経済復興を遂げると、総理大臣に求められる資質は徐々に変遷していった。中曽根康弘元首相のような例外はいたが、「強権的と言われても、国益のため決断する指導者」から、「調和を重んずる指導者」が求められるようになっていったのだ。

竹下登元首相の言葉が印象的だ。

「私たちは『俺についてこい』型のリーダーではなく、現実を見つめながら調和を探っていく型の政治家なのである」

理念よりも調和、より正確に言えば利害調整に長けた指導者が求められた。理念を提示し波風を立てることよりも、理念は曖昧なまま調和を重んじた。日米安保によって日本の平和が担保され、右肩上がりの経済成長を遂げている時代、強い指導者ではなく調整型の指導者が求められたのは、ある意味では時代の要請であっただろう。

米ソ冷戦が終結し、平和で安定的な時代が到来すると思われた。しかし、現実は異なった。依然として米国は強国だが、中国が台頭し世界は多極化の時代に進みつつある。

これまでの常識が通用しなくなった現在、日本に求められるのは「現実的かつ理念的指導者」だった。安全保障の観点において、空疎で感傷的な平和論に陥ることなく、現実的に日本の国益を守り抜く。そして、わが国のアイデンティティーを断固として守り抜く。そうした指導者が求められる時代が到来した。

そうした条件に合致したのが安倍晋三元首相に他ならなかった。日米同盟を重視し強化する一方、彼はわが国の歴史問題にも並々ならぬ関心を抱いていた。若き日の安倍氏は「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」を中川昭一元財務相とともに結成し、自虐教育の弊害を一掃しようと尽力した。感動するのは勉強会に自民党総裁まで務めた河野洋平氏を呼び出し、厳しく指弾している点だ。

最も現実的な政治家は、逆説的だが、最も理念的な政治家でもある。理想主義なき現実主義は、悪しき現状追認に過ぎない。現実主義なき理想主義は陳腐な空想に過ぎない。安倍氏は両者を併せ持った傑出した指導者だった。

戦後、最も傑出した宰相の三回忌。改めてご冥福をお祈りしたい。 =おわり

■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。大和大学准教授などを経て、現在、一般社団法人日本学術機構代表理事。専攻は政治哲学。著書に『いい加減にしろ!』(ワック)、『日本再建を阻む人々』(かや書房)、『興国と亡国―保守主義とリベラリズム』(同)など多数。ユーチューブで「岩田温チャンネル」を配信中。

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