小川眞由美の1990年代の代表作といえば、『湯けむり仲居純情日記』である。
「あれは私の自叙伝のようなものです。脚本をもらったとき、書き直していいですかって聞いたんです。それがヒットしたので、以降ほぼ自分で書きました。子供を慕う母性と、義侠心、女の美徳を全部書きたいと思いました。楽しかったし、大変でしたね」
数多くの出演作の中で一番好きな映画は、寺山修司監督の「さらば箱舟」だという。「寺山さんが亡くなる直前の映画です。ものづくりの素晴らしさを知りました。リハーサルの時、かまどから藁が一本だけ抜けないので、それを取ろうと躍起になってたら、『その演技、本番でやろう』と面白がってくださった。計算を超えた何かです。沖縄での撮影から他の仕事のために東京に戻るときに、寺山さんは『そうやってあなたは枕もかわさずに去っていくのですね』と。それって詩ですよね。本当に才人でした。もっと長生きしてほしかった」
率直な態度が「わがままだ」と誤解を招くこともあったが、本人は「わがままに見えようと仕事をちゃんとやればいいと思います」。
近年、京都の宗教家のトラブルに巻き込まれたことが報道された。「お人好しなんですね。理想のペットショップを作ろうと持ちかけられてだまされました。裁判には勝ちました。宗教にだまされたのではないです。宗教とはご先祖さまに手を合わせることですから。悪いことがあっても母親譲りの陽気さで乗り越えてきました」
筆者が主催する「劇団とっても便利」は2005年から3年連続で、小川を主演に迎えて京都で野外劇を上演した。「私が学んできたことを若い人に教える番だと思いました。最近の俳優は演技とお笑いとの区別がついていない。若い人にはもっと本物の演技に触れてほしいです。大切なのは続けることです」と説いた後、「大野さんには粘る力がある。頑張ってください」と激励してくれた。
文学座同期の樹木希林が病気と闘いながら最後まで演技をし続けたことを「尊敬します」と言う。自身も「寺山修司さんのような監督がいれば、また演技がしたい」とのこと。稀代の名女優が戻りたくなるような舞台を、今の芸能界は作れるだろうか。 (演出家・脚本家)
■小川眞由美(おがわ・まゆみ) 1939年12月11日生まれ、85歳。東京都出身。61年、文学座付属研究所に第1期生として入所。62年、「光明皇后」で初舞台。63年には「母」で映画初出演。70年台以降は映画・ドラマで活躍し、代表作は「女ねずみ小僧」や「アイフル大作戦」、映画「復讐するは我にあり」「八つ墓村」「鬼畜」など。