本欄前回では、トランプ米第2次政権がぶっ放すと宣言している対中高関税は、莫大(ばくだい)な関税収入増をもたらし、無理なく大型減税の財源を確保できると指摘した。では、中国の習近平政権に及ぼす衝撃はいかばかりか。
トランプ氏は中国からの輸入品に対して60%以上、日本など中国以外からの輸入品には一律10%以上の追加関税を宣言してきた。トランプ氏は、中国が台湾封鎖を強行するなら150~200%の関税をかけると宣言済みだ。また、中国企業がメキシコからの迂回(うかい)輸出で高関税適用を回避するなら、メキシコからの対米輸出に100%の追加関税をかけると息巻いている。
2017年に発足した第1次トランプ政権は中国製品に対し、おおむね10~25%の制裁関税をかけたが、中国側はメキシコやベトナムなど東南アジア経由で対米輸出減を防いだ。第2次政権はその迂回ルートも封じる構えだ。
米ゴールドマン・サックスの中国調査部は60%の対中追加関税は中国の国内総生産(GDP)を2ポイントも押し下げると試算した。スイスUBSエコノミストも中国の成長率は半減するとみている。無理もない。2022年に本格化した不動産バブル崩壊は底が見えない状況が続き、住宅相場下落は今年になって、上海、北京など巨大都市でも加速している。住宅など不動産開発投資を中心する固定資産投資は中国GDPの5割前後を占めるが、昨年は前年比12%減で、今年も低迷が続く。
中国金融モデルは、流入する外貨を中国人民銀行が全面的に買い上げ、人民元資金を供給するのだが、バブル崩壊不況を受けて資本逃避が急増し、経常収支の黒字分相当額が雲散霧消している。外国からの直接投資や証券投資も激減し、金融緩和に必要な外貨が不足しているため人民銀行は国債買い上げを伴う金融の量的拡大に踏み切れず、中央政府は大規模な財政出動が困難だ。習近平政権の窮余の一策が電気自動車(EV)、鉄鋼、太陽光発電装置などの大増産による安値輸出攻勢だが、EVなどの製品で米欧から制裁関税をかけられているし、その他の国々からもダンピング提訴を相次いで受けている。その結果、中国の輸出は頭打ちになっている。
そこに、トランプ砲による追い打ちが襲いかかるとどうなるか。グラフは中国の主力の外貨獲得源である貿易など経常収支黒字と米国の対中貿易赤字の推移である。カンのよい読者ならすぐにわかるだろう。中国の対外黒字は実は全面的に米国の対中貿易赤字で支えられている。高関税のために迂回輸出を含めた対米貿易黒字が激減すれば、中国の経常収支黒字は大幅に縮小する。外貨頼みの中国金融は破綻の危機に直面する。やけっぱちになって台湾に侵攻しようものなら、米国から150%以上の追加関税を受け、中国経済は沈む。習政権が生き延びるためには、強権体制を改めて自由化して外資を呼び戻し、台湾海峡の平和を約束するしかない。 (産経新聞特別記者 田村秀男)