年々心に響いて
「今でも人前で歌うのって緊張するんですよ。でも、歌うのではなく、心を伝えようと思って挑んでいます」
宝塚歌劇団の元トップスターが退団10年を迎え、新境地に挑戦している。2025年1月15日に初のシャンソンアルバム「Les Nouvelles Chansons(ヌーベル・シャンソン)」(ソニー・ミュージックレーベルズ)をリリースするのだ。
アルバムでは「サン・トワ・マミー」や「枯葉」「ろくでなし」「愛の讃歌」などシャンソンのスタンダードを歌っている。では、なぜシャンソンなのか。
「宝塚のときもシャンソンを歌う機会は多く、なじみはあったんです。なので退団の頃から、声がシャンソンに合っているからやったほうがいいよって、いろんな方に言っていただいていたのですが、目の前のことに追われて、挑んでなかったんですよね。でもシャンソンを聞くほど、年々心に響くものが増えてきて…。退団から10年がたった今だからこそ挑戦すれば、未知の自分に出会えるんじゃないかって思ったんです」
やはり歌い手としてたどり着くのは、人間のドラマを歌い上げるシャンソンなのか。挑んだことで、それだけ得るものも多かったという。
「シャンソンは本当に難しいです。どれだけその曲の世界に入って歌うかで、お客さまに届くものも変わってくるので。歌については、自分自身の中でも声の出し方とか悩むところがいっぱいあったんです。でも、感情を込めることを学ぶ中で、歌は心で話すというか、思いを伝えることだとシャンソンに教えてもらいました。音楽の聴き方も変わりましたね。これまではテクニックが気になりがちでしたが、今は心を聴こうという気持ちになっています。歌の原点というか、とても大切なことを改めて感じていますね」
実は内気だった
さらに挑戦は続く。来年1月19日、東京・渋谷の「Bunkamura オーチャードホール」で初のシャンソンリサイタルを開催するのだ。
「オーチャードホールでオーケストラを従えて…何と豪華なんでしょうか。もう想像するだけであまりにも恐ろしいです。でも、これまでのコンサートは明るい曲とかかっこいい曲が多かったので、しっとり私の内面を聴いていただきたくて。中身が伴った形で舞台に臨めれば、きっと恐ろしくなくなるのかな」
ステージでは、歌だけでなく、ダンスもしっかり魅せていくという。
「歌もありつつ、やっぱり最後はしっかり踊りたいので、フィナーレナンバーというか、いっぱい踊るところもあります。シャンソンって心の表現だから、ダンスでもそれに挑んでいこうと。シャンソンの名曲を昇華するように踊れたらすごいんじゃないですか」
「実は…」と彼女、「私、内気だったんで、人前でしゃべったり、歌ったりするのが苦手だったんですよ。授業でも答えが分かっているのに、手は挙げないみたいな…」と明かす。
「だから、しゃべったり歌ったりせずに、踊りで表現できるクラシックバレエがすごく私には合っていたんです。でも身長が大きくなってしまい、バレエは無理かな、と」
宝塚を目指すことにしたが、そこで歌うことに直面する。
「音楽学校を受験するために必死に歌のレッスンも受けましたよ。それまで友達のカラオケに行っても歌うのは小室ファミリーでしたけど、クラシックとか日本歌謡などを練習しました」
入団しても歌はどこか苦手だった。しかし、演じるということを学ぶ中で、歌への思いも少しずつ変わっていった。
「まず踊りが心の表現だということを、芝居を学んだことで知って、よりダンスが好きになりましたね。歌も一緒。やはり心の表現なんだと思うようになったことで、向き合い方が変わりました。そして、シャンソンに出合って、その思いはもっと深まりました」
新たな柚希礼音のステージは始まったところだ。
■柚希礼音(ゆずき・れおん) 女優、歌手。1979年6月11日生まれ、45歳。大阪市出身。99年、宝塚歌劇団の雪組公演「再会/ノバ・ボサ・ノバ」で男役で初舞台。2009年から星組トップスターに就任。宝塚時代に日本武道館で単独コンサートを実現させるなど活躍。15年に退団して以降は、女優、歌手として活動している。退団後の主な出演舞台は「ボディーガード」「マタ・ハリ」「お気に召すまま」など。
25年1月19日開催の「柚希礼音リサイタル~REON et Chansons(レオン・エ・シャンソン)~」の問い合わせはキョードー横浜(045・671・9911)。公式サイトは、http://reonetchansons.com。
(ペン・福田哲士/カメラ・寺河内美奈)