テレビの評判がよくないですなあ。出てきて喋っている人に魅力がなくなっていて、夜更けの番組など、まるで空っ風がころがっていく場末の無人駅みたいに寒々しくなっていますからねえ。
お笑いタレントは相変わらずバカ声をはりあげて、カラッポでつまらないことを言っては自分たちで手を叩いて無意味に笑い、隣にいる仲間の頭を叩いてよろこんでいる。能無しディレクターはそういうタレントにすぐに「かぶりもの」をのせ、幼児の演芸大会のようにしてその場をごまかしていく。
あの程度のことをしていても何かのプロになりギャラがとれるのか、と賢い子供たちにどんどんナメられていく気がします。
でもそういう子らもテレビはどんどん空気頭にしていくのだからその罪は大きい。
なにか気のきいた番組をやってないか、と思うが、率先して見たい番組は本当にない。
唯一、見応えがあるのは、NHKでやっているドキュメンタリーシリーズの「映像の世紀」ぐらいですかね。ただ、あれは力強いけれど、すぐに戦争ものになっていくから深夜の放心状態のときには重すぎる。せんだっての「東京 戦後ゼロ年」の回のようなのをもっとやってほしい。
ほかの局では「ナショナル ジオグラフィック」とか「ディスカバリーチャンネル」「アニマルプラネット」ぐらいですかねえ。
でもこのあいだ「ディスカバリーチャンネル」をじっくり見ようとしたら、番組が宣伝でブツギレになっていてげんなりした。語られるエピソードが五、六分ごとに別テーマの番組宣伝になる。目まぐるしいので落ちつかないし、意味もつながらない。
この番組を放送している局の人は、自分のところで流している番組を視聴者の立場になってちゃんと見たことがないのではないか、という疑問を持ってしまった。
まともに見ようとしたヒトはバカにされたような気分になる筈ですよ。宣伝のために何度も何度もくりかえされる同じ画面。一時間に七、八回は見せられている。こんなやりかたでは、放送するにつれてどんどん視聴者が離れていくのは目に見えている。それでも夜中に目をあけてちゃんと見てはこういうコラムを書いているぼくなどは、そうとうに善良なバカ頭のヒトなんだろうな、とつくづく思いました。これだけ不満があっても、まだまだ深夜の大人のニーズを背負える番組だと思ってずっと見てきているからねえ。
びっくりするようなテーマでもさりげなく扱い、呑み込んでこなしていくのは、本国での製作者がちゃんとした大人だからなのだろうか。
■椎名誠(しいな・まこと) 1944年東京都生まれ。作家。著書多数。最新刊は、『続 失踪願望。 さらば友よ編』(集英社)、『サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊』(小学館)、『机の上の動物園』(産業編集センター)、『おなかがすいたハラペコだ。④月夜にはねるフライパン』(新日本出版社)。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttps://www.shiina-tabi-bungakukan.com