安倍晋三元首相の妻、昭恵さんは14日(日本時間15日)、ドナルド・トランプ次期米大統領との面会に向け、米南部フロリダ州のマイアミ国際空港に到着した。トランプ氏は15日(同16日)、私邸「マールアラーゴ」で昭恵さんを招いたプライベートな夕食会を開く予定で、2人の個人的関係で設定されたという。安倍氏と盟友関係を築いたトランプ氏は、いまだに石破茂首相との対面会談に応じていない。トランプ次期政権では、駐日米国大使に対中強硬派のジョージ・グラス氏が有力視されている。石破政権は中国への融和姿勢が目立ち、日米関係の悪化も懸念されている。報道各社の世論調査でも「石破外交」への衝撃的な低評価が判明した。
◇
「日本の歴代首相で、安倍氏のように米国大統領と強固な信頼関係を築き上げた人物は限られている。今回の招待は、安倍、トランプ両夫妻の地道な努力による交流が実ったかたちで素晴らしいことだ」
前駐オーストラリア大使で外交評論家の山上信吾氏は、トランプ氏と昭恵さんの面会をこう絶賛した。
安倍氏は2016年11月8日の大統領選でトランプ氏が勝利すると、同月17日、米ニューヨークの「トランプタワー」を訪問し、外国首脳としてトランプ氏との初会談にこぎつけた。
両首脳は強い信頼関係を保ち、自由主義陣営を牽引(けんいん)した。安倍氏が20年8月28日に退陣表明した直後の電話会談(同月31日)では、トランプ氏は安倍氏との「特別な友情」に謝意を述べた。
安倍氏は22年7月8日、奈良市で参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた。米CNNによると、トランプ氏は定期的に昭恵さんに電話をかけて近況を尋ねていたという。今回の夕食会招待は政府ルートではなく、2人の直接のやり取りで設定されたという。
一方、石破首相とトランプ氏の対面会談はいまだに実現の見通しが立っていない。
石破首相は当初、11月の南米訪問の帰途にトランプ氏との会談実現を目指していたが、かなわなかった。石破首相は「現時点において、会談はいずれの国とも行わないという説明を(トランプ氏側から)受けている」と語った。
だが、トランプ氏は、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領や、カナダのジャスティン・トルドー首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領らと精力的に会っている。
11月7日に行われたトランプ氏と石破首相の電話会談もわずか5分で、各国首脳に比べても、石破首相の時間は少なかった。
山上氏は「石破首相は5分しか電話できず、面会も謝絶された。先の衆院選で惨敗し、安倍氏に後ろから弾を撃っていた石破首相個人への不満があるのは火をみるより明らかだ。トランプ氏側は同盟国・日本を傷つけないよう、公式には『就任前に会わない』としているが、実際には各国首脳と対面した。一方、ここで昭恵夫人と面会することは、石破首相に対して『シンゾーがやってきたようにすれば会ってもいい』というメッセージが込められているのではないか」とみる。
石破首相は昭恵夫人の姿勢を学べ
こうしたなか、トランプ氏が次期駐日大使として、実業家出身のグラス氏を指名する可能性があると、米CBSが報じた。
グラス氏は投資銀行や不動産業の経験があり、第1次政権でポルトガル大使を務めた。トランプ氏の返り咲きに貢献した資金調達者の一人とされる。ポルトガル大使時代には、中国に批判的な発言がたびたび報じられるなど「対中強硬派」とみられる。
これに対し、石破政権は中国への融和姿勢が目立つ。
習近平国家主席との日中首脳会談(11月)では、「戦略的互恵関係」の包括的な推進を確認し、中国はその直後、日本人への短期滞在ビザ(査証)の免除措置再開を発表した。トランプ氏との対面会談の見込みもないなか、政府は今月25日を軸に日中外相会談を行う方向で調整に入っている。
11月の南米訪問では、座ったまま各国首脳と握手するなど数々の「外交失態」が目立った石破首相に対し、国民は厳しい目を注いでいる。
共同通信社が14、15両日に実施した全国電話世論調査で、石破内閣を「支持する」と答えた人に、支持する最も大きな理由を聞いたところ、「外交に期待できる」と答えたのはわずか3・1%しかいなかった。
石破外交の今後をどうみるか。
山上氏は「石破政権に対しては、10月の衆院選で民意が〝退場カード〟を突き付けている。それでも退場しないというならば、今回の昭恵夫人訪米の姿勢に学び、『アジア版NATO(北大西洋条約機構)』や『日米地位協定の見直し』など新しいことを掲げず、安倍路線を継承していくべきだ」と語った。