石破茂首相は就任後、長年の主張であった「防災庁」の創設について、赤沢亮正経済再生担当に「防災庁設置準備担当」を命じた。赤沢氏は「防災庁の2026年度中の立ち上げを目指す。予算や人員を抜本的に拡充したい」と表明した。
そして、石破首相は所信表明演説(4日)で、「人命最優先の防災立国」の構築に向け、「防災庁」設置の必要性を強調した。この一連の性急さには驚きを禁じ得ない。
石破首相は、米シンクタンク「ハドソン研究所」のホームページで発表した寄稿文「日本の外交政策の将来」で、「米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)に準ずる『防災省』の設置が喫緊の課題となっている」と記述している。
石破首相のお気に入りのFEMAは、米国における災害発生時の対応で重要な役割を担ってきた。しかし、2003年に国土安全省が新設され、FEMAが指揮下に入ったこともあり、指揮命令系統の複雑化、危機対応訓練の不足などにより、対応の不備が露呈している。
米国の例を単純に日本に当てはめることができないのは、米国では各州の災害対処を州兵が担っているからだ。わが国には州兵は存在しないので、その役割を自衛隊が担っている。自衛隊は有事を担当する軍事組織であると同時に、災害対処における米国の州兵と同様な役割も果たしている。
もしも、自衛隊以外に防災を専門とする「防災庁」を編成するのであれば、防災庁と防衛省・自衛隊との役割分担や連携要領を明確化しなければいけない。特に、防災庁が実動部隊を保有するのであれば、以下の諸問題の解決策を明示すべきだ。
まず、防災庁の要員を募集することになるが、防災庁の要員募集は自衛官募集と競合することになる。現在、自衛官募集は非常に難しく、満足に要員確保ができない状況だ。防災庁の要員を自衛隊から剥がして補充する案は最も安易な案だが、明らかに「自衛隊の弱体化」につながる。
次に、防災庁の実動部隊が使用する装備品だ。小型・中型・大型の各種車両、ブルドーザーなどの重機、ヘリコプターや輸送機などが必要になるが、その経費は膨大になる。自衛隊から装備品を借りるというのは安易な考えであり、自衛隊の弱体化につながる。
さらに、防災庁の実動部隊は訓練場を確保する必要がある。自衛隊の訓練場を借りるという案もあるが、自衛隊の訓練に明らかにマイナスになる。
つまり、防災庁の人・装備品・訓練場を自前で持つと、膨大な経費が必要だし、自衛隊の人・装備品・訓練場を利用することは自衛隊の弱体化をもたらす。
結論として、わが国の大規模災害に伴う実動部隊は、防衛省・自衛隊が今まで通り担当するのが最も経済的、効率的、実際的だ。自衛隊は日本有事への対応のための組織であるとともに、平時においては大規模災害に対処できる優れた組織だ。災害対処の専門組織としての「防災庁の創設」は机上の空論である
(元陸上自衛隊東部方面総監) =おわり