芸術の秋。今年も全国各地でアートイベントが始まりました。
そんな中、京都では、平安神宮近くの細見美術館で、日本ではなかなか見られない浮世絵を集めた「美しい春画展」が開幕しました。
春画とは人間の性愛を描いた絵画の総称で、ズバリ、男女の営みがリアルに描かれたもの。会場には海外から帰国した作品も含め、厳選された春画70点が展示されています。
なかでも、葛飾北斎が描いた春画「肉筆浪千鳥」や、美人画で知られる喜多川歌麿の春画は、日本の美術館では初公開。いずれも肉筆春画で、今や世界のビッグネームになった浮世絵師の知られざる一面を見るような、新鮮さを感じます。
しかも、その内容たるや「もしこれが写真だったら絶対タブー」と思われるものばかり。男女が絡み合う姿に留まらず、局部が大きくクローズアップされ、陰毛の一本一本に至るまでリアルに描かれているものが、あちこちに展示されています。日本の美術館ではめったに見られない光景といえるでしょう。
というのも日本では明治時代以降、春画は秘すべきものとされ、どんなに有名な絵師の作品でも美術館では公開できませんでした。今でも公立の美術館はNGで、私立美術館でも、ほとんど扱われることはありません。
しかし細見美術館では以前から春画の芸術性に着目しており、8年前には本格的な春画展を開催。同時期に開催された東京・永青文庫の展覧会ともに、日本初の春画展として大きな注目を集めました。
それを機に春画に対する社会の考え方が少しずつ変わり、浮世絵の展覧会ではコーナーの一角に春画を展示するといったケースも増えました。今回の「美しい春画展」は、そんな社会の変化を敏感に捉えたタイムリーな展覧会といえるでしょう。
それだけに会場は連日大にぎわい。若い女性も多く、笑いながら、ちょっと際どい春画に見入る姿も珍しくありません。
しかし、そもそも春画は江戸時代に「笑い絵」と呼ばれ、浮世絵の普及とともに、大名から庶民まで広く親しまれたもの。縁起物として嫁入り道具にもなっていたと言われています。昔は、母親が嫁ぐ娘に持たせた〝大切な教え〟だったのです。
なんだか「不適切」や「ハラスメント」に縛られた現代が異常な時代に思えてきました。これもアートの力かもしれませんね。11月24日まで。 (地域ブランド戦略家・殿村美樹) =隔週木曜日掲載