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岩田明子 さくらリポート トランプ氏再任なら懸念される「北朝鮮外交」拉致問題解決を迫ることができるのか 暗殺未遂事件、自民総裁選にも影響

zakzak by夕刊フジ 2024年7月17日 6時30分

米国政治の混乱が止まらない。13日(日本時間14日)には、ドナルド・トランプ前大統領(78)が銃撃されるという暗殺未遂事件が起きた。

混乱は事件前から起きていた。ジョー・バイデン大統領(81)の高齢に対する不安が高まり、民主党内で「大統領選からの撤退」を求める動きが広がり続けていた。この異常事態のなか、西側諸国は「第2次トランプ政権誕生」に備えた動きを加速させているように見える。

11日(同12日)に閉幕したNATO(北大西洋条約機構)首脳会議では、首脳宣言でウクライナの加盟について「不可逆的」という表現が盛り込まれた。日米など20以上の国や機関による新たな連携の枠組み「ウクライナ・コンパクト」の結成も発表された。

バイデン氏は、ロシアを刺激しないよう、ウクライナのNATO加盟には慎重な立場を取っていたとされる。

一方、欧州は、NATO加盟国に軍事負担増加を求めるトランプ氏が大統領に返り咲いたとしても、NATOの関与が「逆戻り」しない仕組みを望んでいた。その危機感が首脳宣言などに現れたのではないか。

米国の迷走は、「自由」「民主主義」「法の支配」「人権」といった基本的な価値観を共有する西側陣営の結束を揺るがしかねない。ロシアや中国、北朝鮮という覇権主義国家の脅威に直面する日本への影響も大きい。

第2次トランプ政権誕生で、特に懸念されるのが対北朝鮮外交だ。

トランプ氏は前回の大統領在任時、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と3回の首脳会談を行った。正恩氏と頻繁に書簡をやり取りしていた。

首脳同士の書簡は最高機密といえるもので、他国の首脳に見せることは外交儀礼上あり得ない。だが、トランプ氏は安倍晋三元首相に披露していた。それだけ、正恩氏とのパイプの存在はトランプ氏にとって、重要な意味を持っている。

こうした状況から、トランプ氏再任の場合、北朝鮮に再びアプローチを仕掛ける可能性がある。その際、トランプ氏が「北朝鮮にCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を突きつけられるのか」、日本にとって重要な「拉致問題解決を迫ることができるのか」が焦点になるだろう。

過去の米朝首脳会談では、安倍氏がトランプ氏に北朝鮮外交の要諦についてアドバイスし、拉致問題の提起を要請していた。この結果、トランプ氏は拉致問題解決を再三にわたって提起し、2回目のベトナム・ハノイでの首脳会談では、部分的な核施設廃棄しか示さなかった北朝鮮と米国の交渉は決裂した。北朝鮮外交にとどまらず、安倍氏は当時、欧州やイランと米国の仲介役を果たしてきた。

さらに貿易問題で安倍氏は戦略的に米国を押さえ込むことに成功していた。安倍氏が2020年8月に退陣を表明した際、トランプ氏は電話会談で「貿易交渉では正直負けたと思った」と吐露していた。

「米国第一(アメリカ・ファースト)主義」を掲げるトランプ氏が、安倍氏なき日本に対して、通商分野で要求を強めてくる懸念がある。

米国の混乱を受け、9月の自民党総裁選の重要性はより増している。

次期衆院選への不安から、国民の支持が高い政治家を選ぶという「人気投票」に終わってはならない。「日本の総理が言うんだから」と、日本の要求を呑(の)んでくれるような関係をどの国とも構築できる人材が必要だ。国際社会で力を発揮し得る政治家が新総裁にならなければ、迫りくる危機には対峙(たいじ)できないだろう。

■岩田明子(いわた・あきこ) ジャーナリスト・千葉大学客員教授、中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。昨年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。

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