激動必至、2025年の幕が開いた。最大の注目であるドナルド・トランプ次期米大統領は就任前から、ロシアによるウクライナ侵攻の早期終結を要求する意向を示し、次期政権の閣僚級人事では、世界の覇権を狙う中国に対峙(たいじ)する「対中強硬派」をズラリと並べた。こうしたなか、石破茂首相と政権の外交姿勢は異様だ。トランプ氏との早期会談について、就任前ではなく2月上旬に先送りする方向で検討に入った。一方で、岩屋毅外相を昨年末に訪中させ、石破首相も訪中意欲を強く示すなど、「親中姿勢」が際立っている。ジャーナリスト、長谷川幸洋氏が、世界に広がる「自国最優先主義」と、絶望的な石破政権に迫った。
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トランプ氏が20日、米国の新大統領に就任する。世界最強の覇権国である米国の大統領が「アメリカ・ファースト(米国第1主義)」を掲げる以上、同じような「自国最優先主義」は、いや応なしに世界に広がっていくだろう。もはや、米国には頼れないからだ。日本は対応できるのか。
トランプ次期政権は昨年から、実質的に動き出した。まず、ウクライナの戦争だ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に停戦交渉に応じるよう圧力をかける一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領についても、12月に開かれた集会で「彼はできるだけ早く、私と会いたがっている」と明かした。
戦争の先行きは、トランプ氏が鍵を握っている。
中国についても、習近平総書記(国家主席)を「大統領就任式に招待する」という前例のない先手を繰り出した。習氏は断ったが、トランプ氏が米中関係を主導する自信の表れにほかならない。
外交を動かす武器に「関税」を使う手法もはっきりした。
カナダとメキシコには、違法薬物と不法移民の流出を止めなければ、25%の関税をかける方針を表明している。中国からの輸入品には60%の関税に加えて、違法薬物の流出が止まるまで、追加で10%の関税をかける考えを明らかにした。ロシアにウクライナの停戦を働きかけないなら、そこでも関税を引き上げる考えを示唆している。
北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるカナダも容赦しないのだから、欧州や日本に対して、関税を武器にさまざまな要求を迫ってくるのは間違いない。
欧州には、防衛費の大幅負担を求めている。
英フィナンシャル・タイムズによれば、トランプ氏はGDP(国内総生産)比で2%だった要求を、2・5倍の5%に積み増した。核を保有する中国や北朝鮮、ロシアに囲まれた日本の危うさを考えれば、同じような要求を日本にしてこない方が不思議だ。
トランプ第1次政権は2019年、日本に在日米軍駐留経費負担の4倍増を求めた。石破茂政権が要求を飲まなければ、関税引き上げどころか、相互防衛を念頭に、「日米同盟の見直し」さえ言い出しかねない。
これらの背景には「米国第1主義」がある。
これまで、米国は世界最強の軍事力と経済力を背景に、「自由」と「民主主義」「法の支配」を世界に広げ、守っていく役割を担ってきた。だが、トランプ氏は世界への関与を減らして、国の資源を国力再建に振り向ける方針を示している。
トランプ氏は「台湾有事」でも「米国第1」が判断基準
台湾も例外ではない。
中国が武力侵攻(台湾有事)に踏み切った場合、米国が台湾を守るために、中国と戦うのかどうか、トランプ氏は明言を避けている。ここでも「米国第1」を基準に判断するだろう。
トランプ氏が国防次官に指名したエルブリッジ・コルビー氏は昨年5月、台湾の英字紙に寄稿して「台湾は『いつでも米国が守ってくれる』と思っているようだが、台湾は米国の死活的利益ではない。米国は台湾なしでも生き残れる。われわれの指導者は米国の若者に、台湾が果たす以上の仕事を求めないだろう」と指摘した。
米軍が参戦しないなら、軍事力に勝る中国は圧倒的に有利になる。もちろん、事態は「日本有事」に直結する。
欧州では、とっくに「米国抜きで欧州をどう守るか」という議論が始まっている。極右と呼ばれる新興勢力の台頭も「自国の利益を最優先で考える」という国民の意識が強まっている証拠だ。
戦争の足音は、東アジアでも迫っている。
日本は国家と国民の利益を最優先に据えて、安全保障と経済活性化の戦略を大急ぎで再構築しなければならない。なかでも、米国と深く連携して国を守るためには、憲法改正が不可欠だ。
石破政権に、それができるか。残念ながら、はなはだ心もとない。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。