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兼原信克 安倍総理の遺産 中朝の「核」を抑止する反撃体制が必要 発射から数分で意思決定するには…日米、最高指導者レベルの頻繁な協議が欠かせない

zakzak by夕刊フジ 2024年7月5日 11時0分

米大統領選に向けたテレビ討論会(6月27日)で、ジョー・バイデン大統領が「自滅」したためか、中国が周辺国への暴挙を拡大している。これに先立ち、中国の呉江浩駐日大使は今年5月、日本が台湾の独立に加担すれば「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と恫喝(どうかつ)した。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国が保有する核弾頭数は推計500発。ロシアは5580発、北朝鮮も50発を保有しているという。日本政府は、国民の生命と財産を守り切れるのか。米国の「核の傘」は機能するか。第2次安倍内閣で国家安全保障局次長を務めた兼原信克氏が迫った。

安倍晋三元首相は生前、「米国と核共有の議論を始めるべきだ」と語っていた。日本は、核不拡散条約(NPT)の下で、核兵器を作ることも、保有することもできない。しかし、持ち込むことはできる。共有することもできる。

地上配備の米国の中距離核ミサイルは、いまだ登場していないが、国土の狭隘(きょうあい=狭い)な日本では配備が難しいであろう。やはり攻撃型原子力潜水艦に搭載して、西太平洋を遊弋(ゆうよく=あちこち航行すること)してもらうのが一番良い。

だが、その場合、日本が核攻撃された後に米国が核を撃ち返すかどうかは、米国大統領の腹一つである。だからこそ、米国の中距離核ミサイルを米国人クルーとともに海上自衛隊の通常型潜水艦に搭載し、その運用について常に協議しておくのがよい。安倍氏は、そう考えていたのではないだろうか。

実際には、「核共有の実現」には高いハードルを越えねばならない。現実味があるのは、中距離海洋核が復活した際に、核搭載米原潜の日本寄港を認めることである。その場合、現在の非核三原則は修正される。日本では大問題になるであろう。

だが、そんなことは入り口の些末な議論に過ぎない。北朝鮮の核の脅威に直面している韓国は、常時、緊迫した軍事情勢の中で、米国との核協議をどんどん進めていると言われている。中国の核使用を本当に抑止できるのか。それこそが問われねばならない真の問題である。

日本と中国、北朝鮮の距離は近い。弾道ミサイルならば数分で到着する。その間に本当に核ミサイルで反撃できるのか。

仮に、中国や北朝鮮の核ミサイルが日本に着弾すれば、日本の自衛隊の戦闘能力は壊滅する。日本の政府機能も壊滅するかもしれない。同盟国としての日本の価値は激減する。その時、米国政府が、日本抜きでは戦えないと思えば、反撃ではなく停戦に動くかもしれない。

そうならないように、中国や北朝鮮が日本に核ミサイルを撃った瞬間に反撃できる即応体制を取らねばならない。それが抑止である。

しかし、日本の首相と米国の大統領が、たった数分でその意思決定ができるだろうか。また、米大統領も人間である。リチャード・ニクソン大統領は政権末期、夜な夜な泥酔していたと伝えられる。それでは核の傘は機能しない。

だからこそ、核の運用に関する最高指導者レベルの頻繁な協議が欠かせない。これまで日本の首相の中で、「米国の核の傘で、本当に中国の核攻撃を抑止できますか」と米国大統領に詰め寄った人はいない。今こそ、その時である。

■兼原信克(かねはら・のぶかつ) 1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書・共著に『日本人のための安全保障入門』(日本経済新聞出版)、『君たち、中国に勝てるのか』(産経新聞出版)、『国家の総力』(新潮新書)など多数。

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