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日本の解き方 産業界が喜ぶ解雇規制緩和論 世界と比較も厳しくない日本の雇用規制 存在する「追い出し部屋」の不幸、必要なのは「明確化」の仕組み

zakzak by夕刊フジ 2024年9月10日 15時30分

自民党総裁選に出馬表明した河野太郎デジタル相や小泉進次郎元環境相が、解雇規制の緩和について言及した。

これまで経済界は、「解雇規制を合理化・明確化する一環としての再就職支援金」を提案していた。これに対して、安倍晋三政権では「金銭によって解決をしていく、解雇を自由化していく考えはない」という国会答弁がされている。

ここでの「解雇規制」とは、裁判例によって確立されたとする整理解雇に関する4条件(①人員整理の必要性②解雇回避努力義務の履行③被解雇者選定の合理性④手続の妥当性)である。整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされている。

産業界は「本音」として、従業員の〝首切り〟を容易にしたいのだろう。「日本の雇用制度が世界と比べて厳しく国際競争力で負けてしまう」という建前で、「規制緩和」と言う。しかし、労働者側は賛成していない。

なお、経済協力開発機構(OECD)の雇用保護指標でみると、日本は、米国や英国などアングロサクソン諸国より高く、イタリア、ドイツ、フランスを含む大陸欧州諸国や北欧諸国より低い。全体の中では中位よりやや雇用保護が緩く、産業界が言うほどには厳しくないのが実情だ。

実態として、リストラという名目で事実上の解雇が進んでおり、こうした現実をみると、「解雇規制緩和」ではなく、「解雇規制の明確化」が必要であろう。

というのは、そもそも中小企業では「解雇整理」は日常茶飯事だ。大企業では、裁判になったらまずいので、解雇ではなく「自己都合退職」としてあらゆることが行われている。一時、マスコミで話題になった「追い出し部屋」といわれる部署は退職勧奨のために存在している。これは、どの企業でも似たり寄ったりだ。企業が裁判を避けるのは社会的イメージもあるが、原状復帰で復職となれば企業が対応しにくいという面もある。

筆者は官僚時代に管理職として人事を手がけたことがある。地方勤務の税務署長時代には、地元のしがらみがないという理由で積年の問題だった解雇を行ったこともある。逆に、官邸で退職するときには、身分は官邸職員のまま内閣府研究所にある、いわゆる「追い出し部屋」に入れられたこともある。官民どちらでも、自己都合退職に仕向けていくのは人事担当者にとっても、実際に退職させられる者にとっても不幸なことだ。

こうした実態を考えると、もう少し使用者と雇用者の双方にとって望ましく、不利にならないような解雇規制の明確化が必要だ。

さらに、中央銀行に「雇用の最大化」という責務を持たせないまま、解雇規制の緩和だけを進めるのは企業サイドに偏りすぎている。欧米で解雇規制が緩いといっても、実際にはそれほどでもなく、中央銀行による雇用の責務があることに言及しないのはまずい。

そして、インフレ目標の範囲内なのに「金利正常化」を主張するのは、さらに雇用を悪化させるだけだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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