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USスチール買収阻止「なぜ『安全保障の懸念』あるのか」石破首相が米批判 さらに「令和の日本列島改造論」まで〝評論家政治〟ぶり

zakzak by夕刊フジ 2025年1月7日 15時30分

年頭記者会見

石破茂首相は6日の年頭記者会見で、ジョー・バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収に禁止命令を出したことを、「なぜ『安全保障の懸念』があるのかは、きちんと述べてもらわないと話にならない」などと批判した。日米同盟を揺るがしかねない外交懸案だが、ドナルド・トランプ次期大統領との早期会談には二の足を踏んでいる。会見では、総スカンをくった「大連立構想」の火消しに走る一方、突然のように「令和の日本列島改造」を打ち上げた。衆院選で大惨敗しながら〝政権居座り〟を決め込むが、少数与党の難局を打開する具体策には乏しい。口先の「評論家政治」で国益を守り抜けるのか。

日本製鉄は6日夜、バイデン氏らを相手取り、米鉄鋼大手USスチール買収禁止命令の無効を求める訴訟を米首都ワシントンの連邦控訴裁判所に起こしたと発表した。橋本英二会長が7日午前9時から記者会見する。米当局の審査は違法で、バイデン氏による大統領令は「不当な政治的介入」だとして異議を申し立てた。

石破首相はこれに先立つ年頭会見で、冒頭の発言とともに、「日本の産業界から日米間の投資に懸念の声が上がっていることを重く受け止めざるを得ない。払拭に向けた対応を米政府に強く求めたい」と指摘した。

確かに、同盟国のリーダーから「安全保障の懸念」と言われれば看過できない。石破首相の発言を「よく言った」「久しぶりの石破節」などと評価する声もある。

だが、日本製鉄によるUSスチールの買収は、昨年11月の米大統領選で争点の1つになっていた。昨年10月1日に就任した石破首相としては、もっと早く動くべきだったのではないか。

経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「日鉄とUSスチールの件を大事と捉えるならば、評論家のようなコメントで終わるのではなく、本来は首相自身や岩屋毅外相が米国に直接渡るなど、動くべきだったのではないか。2人が行けなくとも、武藤容治経産相や城内実経済安保相を派遣する手段も考えられた。(石破政権下では)日米で電話一本で話せるようなパイプや、信頼関係のなさを示したかたちだ。第三者的の立場で分析している場合ではない」と語った。

日本国のリーダーである石破首相には、20日に就任するトランプ氏との信頼関係構築が求められる。

ところが、石破首相は先の会見で、「政敵」だった安倍晋三元首相の妻、昭恵さんが後押ししてくれた早期会談について、「現在まだ確定していない。最もふさわしい時期に、ふさわしい形で実現するよう調整している」と語った。同日夜のBSフジ番組では、次のように説明した。

「(トランプ氏が)大統領になっていろいろな発言をされ、人事をやられた後の方が、私はやりやすい」「大統領就任後の方が、向こうも責任ある立場として発言しやすいだろう」「日本として何を言うべきかは、本当にきちんと戦略を練ってやっていかないといけない」

石破政権として、明確な「対米戦略」「対トランプ戦略」がないということか。

「大連立構想」火消しの迷走ぶり

年頭会見では、石破首相が1日放送のラジオ番組で、野党との「大連立の選択肢はある」とブチ上げたことも取り上げられ、「今の時点でまったく考えていない」「(連立が)何のためなのかが大切だ」と語るなど、〝火消し〟に追われた。この迷走は何なのか。

ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「石破首相は、理論的に可能性があることは『あり得る』というタイプだ。かつての〝党内野党〟であれば、そうした物言いで良かったが、一国の首相の立場は重い。報道は時に一言を切りとる。そうした『重み』を実感しているのではないか」と指摘する。

有馬晴海氏「具体性なき『令和の日本列島改造論』」

これでは、まさに「評論家政治」ではないか。

国民が経済政策で期待するのは、「増税・高負担路線」からの転換だ。昨年末の臨時国会では、国民の手取りを増やす「103万円の壁突破」を掲げた国民民主党に接近した。ただ、昨年末の与党の税制改正大綱では「123万円」とする方針が明記され、国民民主党が掲げた「178万円」から大きく後退している。

石破首相は会見で、「力に頼りリーダーシップを発揮することはしない」「『なるほど政府の言うことはもっともだね』と思っていただく環境をつくらなければ、野党の方々に賛成していただけるとは私は思っていない」と述べたが、このままで通常国会を乗り切れるのか。

上武大学の田中秀臣教授は「具体策に踏み込まず、『野党の方々』と表現したのは、反緊縮の国民民主党を念頭に置いたものではなく、〝増税緊縮路線〟の立憲民主党にも配慮し、少数与党としてフリーハンドを残しておきたかったのだろう」との見方を示す。

早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏は「石破政権は現在以上の減税を実行する意思がないと考えられる。昨年末の野党との協議でも首相の指導力は全く見られなかった。国民生活にほとんど関心がないのではないか」と指摘した。

石破カラーが見えないなか、地方創生の一環として「令和の日本列島改造」が掲げられた。「一極集中を見直し、多様性を未来への力としていく。新たに創設を目指す防災庁も含め、地方移転を強力に推進する」という。これをどう見るか。

政治評論家の有馬晴海氏は「師と仰ぐ田中角栄元首相の『日本列島改造論』にならったのだろうが、具体性が乏しい。安倍政権の『アベノミクス』のような明確な旗印がなく、周辺では『何がやりたいか分からない』と厳しい声があがっている。今年夏の参院選で自民党が巻き返すには、大炎上した裏金問題を帳消しにするぐらいのビジョンが必要だ。ムダな予算をあぶり出し、日本の国益や国民の豊かさにつなげる政策論が求められる」と語っている。

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