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日本の解き方 ハリス氏の〝左派的〟経済政策、トランプ陣営は批判が容易だ 皮肉なことだが日本にとって悪くない、円安の恩恵も

zakzak by夕刊フジ 2024年8月24日 15時0分

米民主党の大統領候補、カマラ・ハリス副大統領は16日、経済政策を発表した。その中身は、住宅や食品の価格抑制や、税制を使った生活支援による高インフレへの対抗策である。

まず、住宅供給を4年間で300万戸増やすために低価格住宅を建設する会社へ税優遇を行い、住宅の初回購入者の頭金2・5万ドル(約370万円)を支援する。家賃の値上げも監視するという。

食品について、価格つり上げ禁止法を制定する。米連邦取引委員会(FTC)を使い、企業が過大な利益を出せないようにするともいう。

こうしたインフレ対策とともに、子育て家庭へ児童税額控除を復活させ、低所得者層に所得税控除を拡充することで事実上の減税政策を行う。

共和党のドナルド・トランプ前大統領の陣営にとって、これらの経済政策を批判するのは容易だろう。

まず、インフレはジョー・バイデン政権の問題である。批判の第一歩は、なぜバイデン政権で対策をしなかったのかだ。ハリス氏のいうような妙案があれば、すぐにでも実施していなければおかしいと反論できる。これは手続き論なので、政策の中身に言及しないで行える。

次に、政策の中身についても反論できる。現在の米国でインフレが進んだ要因は、コロナ対策においてバイデン政権で巨額な財政支出をしたことだ。

同じく日本のコロナ対策で、財政出動の規模を決める際、当時の安倍晋三首相はとても悩んでいた。相談を受けた筆者は、予想されるGDPギャップ(潜在的な供給力と実際の需要の差)を埋めて、さらにインフレ目標を大きく超えるインフレ率にならないように、真水で100兆円程度の財政出動を進言した。

一方、米国では2021年、発足直後のバイデン政権が200兆円以上と、当時、世界で最も巨額の財政出動をしたので、インフレ目標を超えるインフレになると筆者は懸念したが、その通りだった。

過剰な財政出動による総需要過多に基づくインフレなので、金融を引き締めて時間がたつのを待つか、供給サイドを拡大するマクロ政策が必要だ。それにもかかわらず、ハリス氏の経済対策には減税など総需要を増やす政策が多い。これではインフレ対策にならずに、インフレはさらに加速してしまう。

左派の政策でよくあることだが、価格への直接介入が多い。これは、本質的にはインフレ対策にならず、しかも実行しようとすると共産主義のような統制経済にしないとできない。いずれにしても、ハリス氏の陣営から出てきた経済政策は典型的な左寄りだ。トランプ氏にとってはくみしやすいだろう。

ハリス氏が経済政策を発表する前、〝ご祝儀〟もあってか、ハリス氏の当選確率はトランプ氏を上回っていたが、発表後は差が詰まる場面もあった。

ハリス氏の経済対策では米連邦準備制度理事会(FRB)は金融引き締めをせざるを得なくなる。その結果、円安ドル高傾向となるので、皮肉なことだが日本にとって悪くない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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