日本は「2050年にCO2(二酸化炭素)を排出実質ゼロ」にすることを目標にしている。
では、これで地球の気温はどれだけ下がるのか?
分かりやすい概算を示そう。計算しやすいように数字は適宜丸めておく。国連の諮問機関である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のまとめだと、累積で1兆トンだけCO2を排出すると気温は0・5度上がるとされている。
日本のCO2排出量は、いま毎年約10億トンだ。これは1兆トンの1000分の1なので、つまり日本のCO2排出によって毎年0・5度の1000分の1、つまり0・0005度だけ気温が上がる。ごく僅かである。50年までの累積だとこの約24年分になるが、気温上昇は0・012度しかない。
だから、50年までに日本のCO2排出を直線的にゼロにするとしても、それによる気温の低下は12年分の排出量に相当する0・006度しかない。
なぜこんなに僅かかと言うと、理由は2つある。
第1に、地球温暖化は起きていると言っても、100年間で1度程度と、ごくゆっくり僅かだからだ。
第2に、日本のCO2排出は世界の3%に過ぎないことだ。
この僅か0・006度のために、政府は「グリーントランスフォーメーション(GX)法」をつくり、今後10年間で150兆円をかけるという。これは毎年15兆円なので、GDP(国内総生産)の3%にもなる。防衛費を2%にするために大騒ぎをしていたが、その裏では菅義偉、岸田文雄政権の下、このような話がまかり通ってしまった。
この0・006度という計算は、環境派のバイブルであるIPCCの報告書に基づいているので、彼らは否定しようがない。
ただし、この計算は、過去の気温上昇が主にCO2によるものだという仮説に基づく。だから、太陽活動の変化や気候の自然変動なども考慮すると、実際はこれでも過大評価だと筆者は見ている。
参政党の神谷宗幣代表は今年3月21日、参院財政金融委員会でこれを取り上げ、「0・006度しか気温が下がらないのに『脱炭素』を進めるのか」という趣旨の質問をしてくれた。答弁に立った鈴木俊一財務相は「日本の排出量が全体の3%といえども、また半減しても0・006度であるといえども、国際社会の一員として気候変動対策をやるべきであると思います」と答弁した。
一体、真面目に国民のことを考えているのだろうか。政治家は「150兆円かけて0・006度下げたいのか」と国民に問いかけ、その答えを政府にぶつけるべきだ。
■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書・共著に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『亡国のエコ』(ワニブックス)、『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社新書)など。