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ドクター和のニッポン臨終図巻 評論家・唐沢俊一さん、SNSで「つながり」孤独ではなかった 火葬に立ち会い、死の手続きを請け負った唐沢なをきさんは立派

zakzak by夕刊フジ 2024年10月7日 15時30分

最近、X(旧ツイッター)で著名人の訃報を知ることが多くなってきました。いえ、著名人でなくとも、そのXのアカウントをもっていた当人が亡くなった場合、「〇〇の妻です」とか「〇〇の息子です」という方が、その人の死を伝えていることもしばしばあって、見ず知らずの人のアカウントを、不思議な気持ちで眺めることもあります。生前のポストをつい遡(さかのぼ)って、どんな人だったのだろう…と想像してみたり。死んでから、誰かの存在を知るなんて、不思議なことです。

先日も、不意に流れてきたポストに目が留まりました。

「9月24日、唐沢俊一が心臓発作により自宅で亡くなりました。本日荼毘(だび)に付しまして葬儀は行いません。

彼は俺に対して噓、暴言、罵倒を繰り返してきて20年以上絶縁状態でした。晩年は金の無心も酷(ひど)かったです。冷たく聞こえるかもしれませんがこの話はもうしたくないのでお悔やみの言葉はご遠慮願います」

続いてこんなポストも。

「孤独死でしたが、SNSで異常に気づいた方々が動いてくれて早期発見できたと聞いております。ありがとうございました」

このポストの主は、漫画家の唐沢なをきさん。亡くなったのは、なをきさんの兄で、いわゆるトンデモ本を発掘する「と学会」を作るなど、「オタク文化」評論家として数々の著作もあった唐沢俊一さんのことでした。享年66。

血を分けた兄弟が、SNSでこんなふうに家族の死を伝えなければならないとは…よほどのトラブルがあったのだろうと察します。それでも火葬に立ち会い、死の手続きを請け負ったのですから、立派です。僕は在宅医時代、家族が誰も引き取りにこないご遺体、つまりは無縁仏をたくさん見てきましたから。

家族制度が崩壊しつつあるわが国で(夫婦別姓反対がそれを食い止めるとも思えませんが…)、孤独死は珍しいことではなくなりました。最近は、20~40代の世代で孤独死する人が増えているようです。

唐沢さんのように自宅で心臓が突然止まって、そのまま死に至るケースもここ数年で増加しているとのこと。その理由は…あえてここでは言及しないでおきましょう。

しかし死ぬときは皆ひとり、です。多くの人に看取られたからといって幸福な死だとは限りません。臨終の床を囲んで遺産相続について揉(も)めるような家族なら、いないほうがマシというもの。なをきさんも呟(つぶや)いたように早期発見できれば、それでよし。SNSが更新されなくなったら、誰かが通報をしてくれる時代。唐沢俊一さんは多くのファンにフォローされ異変に気付いてもらったのですから、孤独ではなかったとお察しします。

■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。公益財団法人日本尊厳死協会副理事長としてリビング・ウイルの啓発を行う。映画『痛くない死に方』『けったいな町医者』をはじめ出版や配信などさまざまなメディアで長年の町医者経験を活かした医療情報を発信する傍ら、ときどき音楽ライブも。

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