ドナルド・トランプ次期米大統領は、来年1月20日の正式就任を前に米国内外で活発に動いている。だが、国際投資アナリストの大原浩氏は、トランプ次期政権の前に「暗雲が立ち込めている」と指摘する。大原氏は寄稿で、米国のバブルが崩壊した場合、「とてつもない惨劇になり得る」と警鐘を鳴らした。
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12月17日、全米50州と首都ワシントンで計538人の選挙人が投票を行い、トランプ氏が「正式に」大統領に当選した。
形式的なものだが、選挙戦終盤で暗殺未遂が繰り返されたトランプ氏の場合、大きな意味を持つ。大統領の後継順位は、副大統領、下院議長の順番であり、何が起きてもトランプ路線が継続されるためだ。
「悪夢のジョー・バイデン民主党政権」で混乱した政府や経済の立て直しを急ぐトランプ政権だが、直近の問題として懸念されるのが「バブル崩壊」だ。これは筆者だけではなく、「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏も現金準備を積み上げるなどして警戒している形だ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は17、18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を0.25%引き下げた。同時に2025年の利下げをより慎重に進める「タカ派」姿勢を鮮明にしたことで、ダウ工業株30種平均は前日比1123ドル(2.6%)安になり、50年ぶりの10営業日続落となった。
これは、バブル末期の典型的状況だ。
「100人の村現象」については、拙著『勝ち組投資家は5年単位でマネーを動かす』(PHP研究所)で解説した。100人の村人のうち90人が「買いだ!」と叫んでいるときには、彼らはすでに大量に買い込んでいて買い余力がない。むしろ利食い売りのタイミングを待っている。新規に買うことができる村人は10人しか残っていないから、市場が騒いでも株価はなかなか上昇せず、しびれを切らした強気派が売りに向かう。しかし、市場には買い手がほとんど存在せず暴落を引き起こすというわけだ。
市場では、このような循環が繰り返し起こっている。だが、今回、筆者が大きな懸念を抱いているのは、とてつもない惨劇になり得るからだ。
米国のバブルを生じさせた大きな原因の一つである世界的デフレ・低金利の時代は終わっている。少なくとも今後数十年はインフレ・高金利の時代になるはずだ。
インフレに強い懸念を抱いているトランプ氏の政策も、結果的にインフレ促進・高金利を招くだろう。その結果、バブル崩壊は避けられない。不景気と物価上昇が同時にやってくる「スタグフレーション」の可能性が高い。ドルの基軸通貨としての地位も低下しており、さすがのトランプ氏も対処するのは困難だ。
それに対して、デフレの時代に「独り負け」の感があった日本は、長期的な成長へと向かうと考えられる。日本企業はキャッシュリッチで耐性がきわめて強い。「失われた30年」の間に血のにじむような構造改革を行ってきたから筋肉質だ。バフェット氏も日本の総合商社に投資するなど、日本企業への新たな投資に興味を持っている。
日本は米国がベトナム戦争以後落ち込んでいた時代にバブルを含めた繁栄を経験し、逆に1990年代以降の米国繁栄の時代に「失われた30年」に遭遇した。長期的には米国の惨劇がトレンドの転換点になると考える。
ただし、米国は、グローバル化が進んだ日本企業にとって極めて重要な市場であるから、短期的には日本にもかなりの激震が走ることには注意すべきだ。
■大原浩氏(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所代表パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。