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認知症の親を責めてはダメ…わかっているけど気持ちを抑えられない【第一人者が教える 認知症のすべて】

日刊ゲンダイ ヘルスケア 2024年5月28日 9時26分

【第一人者が教える 認知症のすべて】

「怒りたくないのに、この間も怒ってしまいました。大反省して、いま落ち込んでいます」とため息をつくのは、95歳になる認知症のお母さんと2人で暮らす大阪府在住の女性です。

 認知症に関する本や雑誌を読むと、必ずといっていいほど「認知症の人に対し、怒ったり責めたりしてはダメ」と書いてあると思います。

 認知症の人は、いろいろ忘れてしまうことや、以前のような自分ではなくなってしまったことなどに不安を覚えています。それを怒られたり責められたりすることで、より一層不安が増し、怒りで不安を紛らわそうとしたり、萎縮して、できることもできなくなってしまうことは珍しくありません。認知症でなくても、怒られたり責められたりすると、嫌な気持ちになりストレスが蓄積されるでしょう。

 認知症でも同様で、そのストレスが認知症の症状を進ませてしまうケースもあります。

 また、認知症では記憶力が低下しますが、感情記憶は残りやすい。「この人はいつも怒る」という記憶が残り、例えば「病院で診てもらおう」「薬を飲もう」という提案を、拒否されてしまうことも。本人の言い分をまずは受け入れ、不安を取り除くことがベターですが、冒頭の女性は「期間限定ならそれもできます。でも毎日のことですから、いつもいつも仏様のような自分でいられません」と苦笑します。

 私は、ご家族同伴で認知症の患者さんとお話しすることが多い。そんな時、患者さん、ご家族双方の困りごとを聞き、患者さんがどうしてそういう行動に至っているのかをご家族にお話しするケースがよくあります。

 患者さんがご家族への感謝の言葉をぽろっとこぼすこともしょっちゅう。そういう時間を重ねることで、ご家族は認知症についての認識を深め、患者さんの行動には意味があると理解し、さらに患者さんを大切に思う気持ちを再確認する。

 診察の場は、ご家族が気持ちを吐き出す場でもあります。

 そうやって、むやみに怒ってしまうことを回避していくのです。

認知症の母親が物を散らかすのはなぜ?

 ただ、大阪府在住の女性、実際はご本人が言うほど、怒ってばかりではありません。

 現在介護中、または介護経験がある仲間が周囲に何人もいて、情報を共有したり、愚痴を言い合ったりできることが大きいのだと思います。

 そんな仲間とのやりとりで、気づきを得たことのひとつが「お母さんが部屋を散らかすのはなぜか」だそうです。

「整理整頓が得意で、いつも部屋をきれいに片付けていた母が、認知症になってから物を片付けられなくなり、部屋が散らかり放題。情けないし、恥ずかしいし、こんな汚い部屋にいても平気になっちゃった母が悲しくて、最初の頃、『どうして物を出しっぱなしにするの!』と怒ってしまいました」(女性)

 片付けても、お母さんがすぐに物を引っ張り出してしまうので、床やテーブルの上が物でごちゃごちゃになってしまう。大切な銀行の通帳までテーブルの上。「女性が片付ける↓お母さんが散らかす」の繰り返しで、女性のイライラは募るばかり。

 そんな時、義理の両親の介護を経験し、ヘルパーの資格を取った介護の先輩からこんな一言が。

「認知症で記憶力が低下しているから、見えないところにしまわれると、何がどこに置いてあるかわからなくて不安になる。銀行の通帳をテーブルの、よく見える場所に置くのも、安心するため」

 女性はストンと納得がいったそうで、さらには「片付けられないお母さんが可哀想だと思うのは、自分の勝手な気持ちであって、お母さんが居心地よく過ごせるようにすることのほうが大事」という思いに至ったとか。

 お母さんの部屋はお母さんのものなのだから、散らかっていてもいいじゃないか。ただし、転んだりしそうなものが床に置いてある時だけ、別の場所へ移動させる。

 一方、リビングや台所など共有の場所は、やっぱり整理整頓した状態を保ちたい。そこで、片付けてもお母さんがすぐに引っ張り出してくるようなものは、机の上に置いたクッキーの空き箱へ、まとめて入れるようにしました。目に見える場所に物があり、お母さんも安心したのか、リビングなどで散らかすことは激減。女性が片付けの件でイライラすることも激減したそうです。

「介護は、『気づき』の連続でもあります」と女性が話していました。

(新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)

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