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かゆくてたまらない…「結節性痒疹」の新薬が70年ぶりに登場

日刊ゲンダイ ヘルスケア 2024年6月5日 9時26分

 非常に強いかゆみを伴う皮膚の病気、結節性痒疹(けっせつせいようしん)。昨年6月、70年ぶりに新たな薬が保険適用となり、今年3月にも別の薬が承認された。そもそも結節性痒疹とは、どんな病気? 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚病態学の室田浩之教授に聞いた。

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 かゆみは、誰にでも起こる感覚である。というのも、かゆみは本来、体を守るために備わっているからだ。

「例えば寄生虫が肌についたとしましょう。するとそこにかゆみが生じます。中枢神経はかゆみを皮膚からの危険信号と捉えてかゆいところを掻きむしらせ、皮膚表面の寄生虫(危機)を剥がし取ろうとするのです。さらに掻かれた場所の免疫能活性化に伴う炎症が、次なる“危機”から体を守ることに役立ちます。このほか、炎症は、かゆみを引き起こす物質(起痒物質)の産生を促し、さらに掻きむしることで皮膚上の“危機”を排除しようとします」(室田教授=以下同)

 一方、かゆみが度々起こったり、続くことも。皮膚が乾燥しているとかゆくなるし、虫に刺されると時に何日間も強いかゆみが続く。

「この場合、掻いても皮膚の上の“危機”は排除されません。しかし掻くことで炎症が生じ、さらにかゆみを引き起こす物質(起痒物質)が産生され、よりかゆみが増して掻きむしるという悪循環が起こってしまう。そうやって何度も強く掻くことで皮膚は繰り返し傷つけられ、皮膚組織の内部構造が変化して半ドーム状に盛り上がり、結節性痒疹に至るのです」

 結節性痒疹は幅広い年代に存在し、年齢分布では中年以降に多く見られる。一般人にとっては耳慣れない病名かもしれないが、皮膚科医が日常的に診る病気としては決して珍しくないという。

 ところが、これまで治療法は限定的だった。中心となる治療はスキンケアとステロイド外用薬で、それで効果が見られなければ、抗ヒスタミン薬の服用、紫外線療法、それでも効果が見られなければ漢方薬やステロイド局注、または保険適用外の治療などが検討されるという状況だった。

 患者の治療への満足度がうかがえる調査結果がある。「直近1年以内に結節性痒疹の治療を実施した15~69歳」を対象としたインターネット調査では、回答者の全員が治療を受けた・受けているにもかかわらず、「皮疹もしくはかゆみが中等症以上の患者は40%」。80%以上の患者が「かゆみが日常に支障をきたしている」「かゆみで肌を掻きこわしてしまう」「再発を繰り返す」「良い状態が続かないことで困っている」と回答した。なお、治療方法で最多の51%を占めたのはステロイド外用薬だった。

■かゆみに関係するタンパク質の働きを阻害

 そんな中、昨年、今年と承認されたのが「デュピルマブ(一般名)」と「ネモリズマブ(同)」だ。いずれもアトピー性皮膚炎の治療薬として承認されており、「重症アトピー性皮膚炎の治療が劇的に変わった」と高い評価を得ている。今回、結節性痒疹が新たな適応症となった。

 ネモリズマブは特定の分子を標的とする生物学的製剤で、かゆみに関係するタンパク質IL-31の働きを阻害する。

「結節性痒疹ではIL-31が皮疹に多く発現しており、研究では健康皮膚の50倍、アトピー性皮膚炎患者さんの病変部の4.5倍。IL-31の発現量とかゆみの強さ、IL-31の受容体の発現量とかゆさの強さが相関していることも確認されています」

 従来の治療で効果が見られなかった人が対象となる。

「結節性痒疹の治療ではまずかゆみをゼロにし、半ドーム状の皮疹を平坦にする。そして数年かけて徐々に痕が馴染んでほぼ見えなくなる。結節性痒疹単体なら、完治が可能と考えています」

 新たな治療の選択肢が増えたことで、今後に期待を抱く専門家は少なくない。

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■結節性痒疹の特徴
 
●かゆみの程度が非常に強い
●半ドーム状に盛り上がった硬い皮疹が、四肢などの見えやすいところや体幹にできる
●皮疹は個々にバラバラにできる

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