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「RSウイルス感染症」たったひとつの対抗策…すべての乳幼児がハイリスク

日刊ゲンダイ ヘルスケア 2024年6月11日 9時26分

 RSウイルス感染症は乳幼児が避けて通れない病気だ。2歳になるまでにはほぼ全員が感染するというデータがある。乳幼児の感染症の中でも重篤な状態になりやすいRSウイルス感染症、知っておくべきことは?

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 この病気はRSウイルスへの感染によって、気管支炎、細気管支炎、肺炎といった下気道炎を起こす。乳幼児の下気道感染症の原因の80%を占めるといわれている。

「小児科医であれば、誰もが苦労した経験がある病気」と言うのは、千葉大学真菌医学研究センターの石和田稔彦教授。

「健康な乳幼児でも重症化しやすく、早産児や慢性肺疾患・先天性心疾患・免疫不全・ダウン症候群など基礎疾患があるともっと重症化しやすい。集中治療室や人工呼吸管理になり、治癒しても肺などに後遺症を残し、在宅酸素療法となる症例もあります。急に悪化するので、集中治療管理を常に考慮していなければなりません」

 主な感染経路は飛沫と接触。感染力が非常に強く容易に流行を招く。

「テーブルの上で6時間、ゴム手袋で30分、ペーパータオルで30~45分、分離(=増殖)可能との報告もあります」(石和田教授)  「乳幼児にとって、新型コロナやインフルエンザよりはるかに危険」と指摘するのは、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学・森内浩幸教授。重症RSウイルス感染症の実態調査では、「医療ケアあり群(気管挿管、気管切開、在宅酸素療法など)」の乳幼児の9.1%が死亡と、死亡率が非常に高く、「医療ケアなし群」でも0.1%と無視できないレベルだった。

「すべての乳幼児がハイリスク群」(森内教授)

■現時点で治療薬はない

 RSウイルス感染症へどう対策を講じるかは、命にかかわる問題であり、将来に影響を与える問題でもある。

「下気道や肺は2歳ごろまで発達が続く。この時期にRSウイルス感染症で炎症を起こすと後々まで響きます。生まれて最初の3年間にかかった下気道感染症の回数が多いほど、7歳児の喘息罹患リスクは高くなる。乳幼児期に下気道炎を起こすと5歳ごろの呼吸機能が低下、2歳未満で下気道炎にかかると、成人後、呼吸器疾患による超過死亡が倍増といった報告もあります」(森内教授)

 RSウイルス感染症は治療薬がない。 

「現状では予防の注射のみが唯一の対抗手段です」(石和田教授) 

 予防ではこれまで「パリビズマブ」という薬が用いられていた。効果の高い薬であるものの、一方で課題があった。 

 主なものでは、まず対象が基礎疾患を持つ乳幼児に限定されている。前述の通りすべての乳幼児がハイリスク群だが、基礎疾患がなければ対象に含まれない。

 次に、流行時には毎月投与が必要で、やめると効果が減弱し入院率が高くなる。親の負担が大きく、毎月投与が難しい場合もある。さらに、流行開始時期が年、地域で時に大幅に変動し、適切な投与のタイミングをつかみにくい。準備段階で流行時期に突入してしまうこともある。

 今年3月、新薬が承認された。「ニルセビマブ」だ。5月から現場で使われている。条件によって健康保険適用・適用外の違いはあるが、基礎疾患の有無に限らず対象。国際共同試験では1回の投与で5カ月間の有効性が示され、毎月投与の必要はなく、流行時期の変動に対応しやすい。 

「東京都では2021年、23年と6~7月に流行のピークを迎え、24年には前倒しで4月から流行ピークを迎えています。いったん流行を迎えると急激に拡大します」(森内教授)

 RSウイルスの予防薬はワクチンではなく、定期接種ではない。かかりつけの小児科医から案内があったが「まだ……」という人は、もう一度検討した方がいいかもしれない。1本の注射で、現在、そして将来まで続くRSウイルス感染症の影響を断ち切れるかもしれないのだ。

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