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周りと違っているからこそやれることも多い…後藤仁美さん軟骨無形性症を語る

日刊ゲンダイ ヘルスケア 2024年6月17日 9時26分

【独白 愉快な“病人”たち】

 後藤仁美さん(俳優)=軟骨無形性症

  ◇  ◇  ◇

 身長115センチって、だいたい小学1年生と同じなのですが、胴体は大人の女性とほぼ同じで手足が極端に短いという体形をしています。不便なことも多いですが、この体は唯一無二で、周りと違っているからこそやれることも多いと思っています。

「軟骨無形成症」は骨の成長に関わる軟骨の異常により低身長となる先天性の疾患で、四肢や指の短さなどが特徴です。でも自分では、「障害を持っている」とは思っていても、「病気」だとは思っていないんです。もちろん、病気と捉えている軟骨無形成症の人もいますし、それを否定する気持ちはまったくありません。私は生まれたときからこうなので「こうなってしまった」という感覚がないし、このことで治療を受けたこともないので、自分が病気だとは感じられないということです。

 あまりつらいと思わずに育ってきました。両親が「そのままでいいんだよ」「かわいいから大丈夫」と言って育ててくれたことが根底にあるのだと思います。小さい身体の自分をそのまま肯定してくれていました。みんなと違うことがダメなことではなく、そのままで魅力的なんだと言い続けてくれていました。

 いじめらしいいじめには遭いませんでした。小学生の頃は、物心付く前からの幼馴染みの友達に囲まれていたこともあって、嫌な思いをした記憶はありません。中学生になると、そのとき初めて私のことを知る子もいるし、みんなとの体格の差もより目立つようになるので、びっくりされたり、からかわれたりすることはありましたが、小学校からの友達が守ってくれました。私自身も「見てんじゃないよ!」とすごんだこともあります(笑)。

 昔は、家族や身近な人たちからはかわいいと言われているのに、何で知らない人からはじろじろ見られるのだろう? そんなに変かな? と思うこともありました。

 今でも子供にじろじろ見られることはありますが、大人になってみるとそんな子供の気持ちも理解できるようになって、「そりゃ見るよね」と思えるようになりました(笑)。

 軟骨無形成症に根本的治療法はありませんが、多くの人が成長ホルモンの注射や骨延長術(固定具によって骨を引っ張って伸ばす)などを受けます。両親も私もそういう方法があることは知っていましたが、どちらの治療も受けませんでした。そのままでいいと育ててくれた両親ですし、私自身も小さいことのデメリットをとくに感じていなくて、大きくなりたいとも思っていなかったので。とくに骨延長術は、成長期である小学生の時期に1年間学校に行けなくなることが嫌で、また、すごく痛いと聞いていたので、「今悪いところがないのに何で痛い思いをしないといけないの?」と思って、自分自身で受けない選択をしました。

 小さい頃からファッションやオシャレが大好きでした。同年代の子たちが着るはやりの服が着られないのは少し残念でしたが、自分にしかできない着こなしを工夫して楽しんできました。

 自分の姿勢が人からどう見えるかということもすごく気にしていました。軟骨無形成症では、腰が反ってしまうため、それをかばうように歩くと前かがみになりがちです。また、O脚なので、歩くとき左右に揺れてしまいます。そうならないようにいつも姿勢や歩き方に気をつけて頑張っていました。

■私個人を必要としてくれていることに喜びを感じた

 芸能界にも興味はありました。でもやっぱり特殊な身体ですし、芸能人になれるのはキレイでスタイルのいい人だから自分は芸能の仕事はできないだろうなと諦めていました。一方で絵を描くことも好きだったので、当初はデザインやイラストの仕事をしていました。人前に出る仕事をするようになったのは、イラストレーターをやっていた当時、自分の絵の個展にファッションデザイナーさんが来てくださって、そのデザイナーさんのコレクションにモデルとして誘っていただいたことがきっかけです。

 その後、俳優として舞台出演の声がかかりました。「キミみたいな子を探していた」と言われたとき、たんに小さいからというだけでなく私個人を必要としてくれていることに喜びを感じました。

 今は、演じることが楽しいですし、作品を作り上げていく現場が好きです。そして、作品を通して私のことを知ってもらえたらと思っています。

 最近は、SNSなどで私のことを知って、声を掛けてきてくれる人も増えました。物珍しくじろじろ見られるのは嫌なことですが、ポジティブな気持ちで見てくれることは素直にうれしいです。

 俳優としては、夢やファンタジーの世界に出てくる役が多いです。ただ、今後できれば日常にいる普通の役をやりたいと思っています。もちろん不思議な役もうれしいですけど、私はファンタジーじゃないし、現実に“いる”ので。会社の同僚とか、学校の同級生とか、そういう景色をみんなが見慣れてくれれば、いろんな人が生きやすくなるような気がしています。 

(聞き手=松永詠美子)

▽後藤仁美(ごとう・ひとみ) 千葉県出身。イラストレーターとして活動する中、2015年にモデルとして東京コレクションに出演。17年には俳優として舞台や映像作品に出演するようになる。ドラマーとしての顔も持ち、東京2020パラリンピック閉会式ではドラム演奏を披露した。

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