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熱中症救急搬送は高齢者が半数以上を占める…若年者よりリスク高【第一人者が教える 認知症のすべて】

日刊ゲンダイ ヘルスケア 2024年6月18日 9時26分

【第一人者が教える 認知症のすべて】

 昨年5月から9月における全国の熱中症救急搬送人員は、総務省の発表を見ると9万1467人。前年の同期間と比べると2万人ちょっと増えており、過去2番目に多い搬送人員だったそうです。

 年代別の救急搬送人員で最も多いのが高齢者。半数以上を占めています。高齢者は熱中症になるリスクが、若年者よりも高いのです。

 それはなぜなのか? 原因として挙げられるのが、まず加齢によって体内の水分量が少なくなっていること。小児の体内の水分量は75%、成人は60%、高齢者は50%といわれています。体の老廃物を出すときにもたくさんの尿を必要とするので、より体内の水分が不足しがちです。

 次に、加齢で皮膚の温度センサーがうまく働かなくなり、暑さに対する感覚が鈍くなっていること。ある報告では、7月から9月の高齢者の部屋は、若い人の部屋より室温が2度ほど高く、相対湿度が5%ほど高いと指摘しています。

「冷えると体に悪い」とクーラーを使いたがらないことも一つの理由だと思いますが、加齢で暑さを感知しにくくなっていることも関係しているでしょう。

 そして、高齢になると、喉の渇きを覚えにくくなり、水分摂取も不十分になりがちです。

 さらに、自律性体温調節も、老化で鈍っています。自律性体温調節とは、皮膚が暑さを感知し、その情報が脳の視床下部に送られると、体温調節中枢が「暑い」と判断し、皮膚血管や汗腺に命令を出して皮膚血流量や発汗量を増やす機能。こうやって、体内に熱がこもらないようにしているのですね。

 しかし、皮膚の温度センサーがきちんと作動せず、自律性体温調節の発動も遅れると、発汗量なども増えませんから、体に熱がこもってしまいます。

親がクーラーをつけない「暑くないら大丈夫」をうのみにしない

「窓を開けてたら、いい風が吹くんやで。お風呂上がりは、お父さんと、ここで涼んでるんや。クーラーなんて、孫が来るとき以外、一回も使ったことあらへん。窓開けて寝ると、明け方は涼しすぎるくらいや。扇風機もいらん」

 この母親の言葉を、東京在住の40代女性は疑いもしていなかったそうです。自分が実家に住んでいた当時はクーラーはなく、扇風機だけで夏を乗り切れたから。実家の周辺は一面田んぼで、風を遮るものはありません。夏は一日中クーラーをつけっぱなしの東京の自宅と比較し、田舎は羨ましいとすら、思っていたそうです。

 ところが一昨年夏、考えを改めました。これまで実家に帰るのは年1回、年末年始だけ。しかし、なんとなくその年は8月に帰省。夏に実家で過ごすのは、大学進学で上京して以来、実に30年ぶりのことでした。

「明け方は涼しすぎるくらいなんて、とんでもない。暑すぎて、即行でクーラーをつけました」(女性)

 年々気温は上昇し、夏の猛暑日の日数も増加。30年前はクーラーなしでも問題なかったとしても、それは現代には通用しない。かつ、両親が年を取り、暑さに鈍くなっていることにも、意識がいっていませんでした。

 熱中症対策をなんとかしなければと考えた女性。「クーラーは不要」と言う両親に対し、年を取ると熱中症になりやすい理由を丁寧に繰り返し説明。両親ともLINEを活用していたので、両親・自分・弟・弟の子供(両親からすると孫)のグループLINEを作り、「水飲んでる?」「クーラーの設定温度は何度?」と頻繁に呼びかけるようにしたそうです。特に効き目があったのが、孫からの言葉だったとのこと。

 熱中症は、認知症の人ではよりリスクが高くなります。季節や時間帯をうまく認識できず、暑さ・寒さに応じた服装の調整が難しくなり、また水分補給の管理ができなかったり、暑いから室温を下げようという判断ができなかったりするためです。

 高齢のご家族がいる方、特に認知症のご家族がいる方は、夏を迎える前から熱中症対策を意識するようにしてください。

(新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)

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