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運動器疾患と廃用症候群を予防するためにはどんな対策が必要なのか【正解のリハビリ、最善の介護】

日刊ゲンダイ ヘルスケア 2024年6月19日 9時26分

【正解のリハビリ、最善の介護】#33

 リハビリ医が「攻めのリハビリ」を実践するには、患者さんの全身管理を行う能力が欠かせません。中でも、再発を予防する医療に関する知識と対応力が求められます。

 前回お話ししたように、回復期リハビリ病棟には、脳血管疾患、運動器疾患、廃用症候群の3群の患者が入ります。今回は、運動時疾患と廃用症候群の患者さんにどのような再発予防策が必要になるのかについて解説します。

「運動器疾患」は大腿骨近位部骨折と腰椎圧迫骨折が多く、これらは転倒・転落によって生じるケースがほとんどです。そのため、リハビリで「転倒しない体」をつくることと骨粗しょう症の内服治療が重要になります。

 人の筋肉は鍛えると、たとえ100歳でも増強します。われわれの施設では、筋力と体力を上げるためにマシンや器具を使った純粋な筋力トレーニングを行っています。転倒リスクを減らすために最も重要なお尻を含めた大腿部の筋力をアップさせるトレーニングに加え、腹筋、背筋、上半身の筋力トレーニングにも取り組み、あわせてバランスと肩や股関節と脊椎の可動域を向上させます。回復期病院から退院した後も、筋肉、体力、バランス、柔軟性を保つためにはシニア専門スポーツジムでのトレーニングが必要です。スポーツジムは、若者用のマシンのみを設置している施設ではなく、インストラクターがしっかり体と心のカルテを作って管理してくれるスポーツジムを選びましょう。

 ジムのホームページを確認したり、入会体験の際にインストラクターにたずねてみるといいでしょう。

 また、加齢とともに進行する脊柱管狭窄症では、歩行障害やADL(日常生活動作)障害を来します。そのため、手術が必要なケースでは、洗練された手術と術後管理を行ってもらえる脊椎外科医を選択することが大切です。こちらに関しては、「いい医者連携」について取り上げる次回であらためて説明します。

■筋力、体力、認知機能を日頃から鍛えておくことが重要

 最後は「廃用症候群」の再発予防です。廃用症候群とは、病気やケガの治療のために1週間以上安静にすることで、心身機能が大幅に低下する病態です。筋肉や骨の萎縮、体力や心肺機能の低下、呼吸や嚥下障害、起立性低血圧や深部静脈血栓症などの循環器障害、褥瘡などの皮膚障害、抑うつなどの精神障害や認知機能低下が起こるケースもあり、寝たきりの大きな原因になります。

 若年者でも後遺障害の発生後に適切なリハビリ治療を受けなかった場合に生じますが、ほとんどは高齢者で頻発します。高齢になるほど発生しやすく、75歳以上になると1週間の安静臥床=寝たきり治療で必発します。ですから、病気やケガの治療を行う救急・急性期病院でも、最低1日4単位(1単位20分×4=80分)以上のリハビリ治療を受けることが望ましく、可能であれば1日6単位(120分)以上のリハビリ治療が必要です。

 廃用症候群を生じる疾患は、これまでにお話しした脳血管疾患や運動器疾患の術後で寝たきりになった場合以外にも、肺炎後や菌血症後、がんや心臓などの大きな手術の後に発生します。ですから、再発予防には、肺炎や菌血症の感染を防ぐことが大切で、手洗いや歯磨きといった一般的な感染対策はもちろん、免疫機能を低下させないために栄養と体と精神の状態を適切に保つメンテナンスが日々必要です。

 心臓病の予防については、前回お話しした脳卒中の予防策と同様に考えてください。

 がんについては高齢になると発生の確率は高まりますが、がん治療はどんどん進化していて、治癒できる時代になっています。しかし、その後数年で他のがんを発症し、繰り返すケースもあります。そのため、治療の過程で廃用症候群を起こさないように、筋力、体力、認知機能を日頃から鍛えておくことが重要です。がんで手術が必要になったとしても、筋力と体力がある患者さんの方が、術後の回復力は良好であることがわかっています。施設によっては、術前リハビリの強化で、手術の結果を向上させたり、回復や退院を早めています。それくらい、筋力と体力は大切なのです。攻めのリハビリを行うリハビリ医には、このように、あらゆる病気に対する知識と対応力が求められるのです。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)

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