「あながち嘘とは言えません」と泌尿器科医
「映画やライブの前に餅を食べると、尿意が起きにくくなる」
最近SNSでよく見る投稿だ。本当?
「科学的な観点からすると、その話はあながち嘘とは言えません」
泌尿器科医である平澤精一医師(新宿・マイシティクリニック院長)に聞くと、こんな答えが返ってきて驚いた。
餅の原料は炭水化物。体内で糖質となり、グリコーゲンの原料となって水分子と結びつき体内に蓄えられる。つまり、水分を尿として体外に出さないようになる。
「けれども、しょっちゅう、しかも長期にわたって習慣のように続けるのはお勧めしません。なぜなら、糖質の取りすぎで高血糖状態が維持されると、体内の糖を外に出そうと体が尿をたくさん作り、体外に排出しようとして頻尿となる。糖尿病患者さんでは多尿や夜間頻尿がよく見られますが、その糖尿病患者さんと同じような状態になってしまうのです」(平澤医師=以下同)
餅に頼るより、根本的原因にアプローチした方がいい。
中年以上の男性で状況に関係なく頻尿があるなら前立腺肥大が真っ先に疑われるが、もしライブや長い映画、長距離移動など“しばらくトイレに行けなくなる状況”に限ってトイレが近くなるなら、心因性の頻尿が多い。
過去にトイレを我慢した記憶が脳にしみつき、脳が「トイレに行ったほうがいいよ」と指令を出すので、トイレに行きたくなる。膀胱に多く尿がたまっているわけではないので、トイレに行っても尿は少ししか出ない。
「心因性の頻尿では、『こうしたらトイレの不安が減った』という何らかの成功体験を脳が覚えることで改善する可能性があります」
自分なりの“尿意を感じなかった”ことを探してみる。科学的に説明できない何かでもいい。ガムやキャンディーを食べていたら尿意を忘れた、などが成功体験につながることも。
「映画館など席を選べる場合は、列の端っこを選んで“トイレに近い”という安心感をお守り代わりにしている、というのも聞く話です」
トイレは日中8回までなら許容範囲
ところで、頻尿とは医学的にはどのぐらいの回数を指すのだろうか。
「適切な水分量を取っている人で、起きている間に行くトイレの回数は5~7回が正常。8回までなら許容範囲ですが、それ以上は頻尿です」
夜間の正常なトイレ回数は0回。1回はぎりぎり許容範囲、2回以上起きると夜間頻尿だ。
「夜間にトイレで2回以上起きる高齢者は、転倒リスクが高まるなどさまざまな理由から、1回以下の人に比べて死亡率が1.98倍になるという報告があります」
加齢とともに増える頻尿を呈する病気には過活動膀胱もある。
頻尿のほか我慢が困難な強い尿意があり、我慢できずに漏れてしまうこともある。
「また、頻尿の中でも大量の尿が出る多尿では、腎臓や心臓の疾患、糖尿病などが隠れていることもあります。いずれにしろ頻尿があるなら泌尿器科医に相談を。その際、詳しく自分の症状を伝えてください」
あらかじめ、メモしておくと診察時に慌てなくて済む。
■炭酸水は頻尿に?
頻尿対策として利尿作用があるアルコールやカフェインの量を少なめにすることが有効であることはよく知られているが、平澤医師からはこんなアドバイスも。
「炭酸水やかんきつ系の飲み物は膀胱を活発にするため、頻尿になる場合があります。医学的因果関係は証明されていませんが、心当たりがある人は注意して下さい」