2014年12月8日、タイメディアによると、バンコクのカオサン発の長距離バスで盗難が多発しているという。特に多いのがサムイなど南部行き。会社ぐるみの犯行で、トランクに人が隠れており、移動中に預けられた荷物を漁るのだという。
しかし、筆者からすると、タイのバスで気をつけなくてはならないことは他にもある。サービスエリアで置き去りにされることである。
初めて置き去りにされたのは、タイの地方都市からバンコクへ戻るのに長距離バスを利用したときのこと。サービスエリアで止まったので、筆者はバスを降り、トイレで用を足し、食堂でご飯を食べた。そして駐車場に戻ると、バスはすでになかった。筆者のリュックだけを乗せてバンコクへ発ってしまったのである。
タイの長距離バスは乗客が全員そろっているかどうかなんて確認しない。出発の時間になれば、問答無用で出発してしまうのである。筆者はこれに懲りて、それ以降、サービスエリアでもなるべくバスを降りないようにしていた。が、どうしてもトイレに行きたくなってしまったことがあった。車掌は10分止まると言っている。すぐに用を足して戻ってくれば余裕で間に合うはず。筆者は意を決してバスを降りた。
トイレで用を足した。駐車場に戻るときに食堂の中を通った。大きな鍋の中で豚足がトロトロに煮込まれていた。これをご飯にのせて食べるカオカームーという料理。小腹が空いていた。見ているだけで口の中に唾が溜まってきた。すぐにバスに戻らなくてはならないのだが、食欲には抗えなかった。思い切って注文して急いで食べた。食事を終えて売店の前を通った。今度はお菓子を買いたくなってしまった。まだ時間は大丈夫のはずだし、ただお菓子を買うだけなら1分すらかからない。ポテチとコーラをとってレジに並んだ。少しだけ待たされて会計を済ませた。そして店の自動ドアをウィーンと抜けて外に出ると、まさにそのタイミングでバスがブロロロロと出発していた。もう走って間に合う感じでもなかったので、筆者のリュックを乗せて走り去るバスをただ呆然と見送るしかなかった。
しばらくしてから怒りが沸々と込み上げてきた。その矛先はバス車内で筆者の隣に座っていた男に向けられた。どうして筆者がまだ戻ってきていないことを運転手に言ってくれなかったのか。席にリュックが置きっ放しになっているのを見れば、筆者が途中下車したのではないことは明らかではないか。おまえのその口はいったい何のために付いているのか。ただ食べ物を食べるためか。違うだろ。隣の乗客がまだ戻ってきていないのにバスが出発しようとしているときに「隣の人がまだ戻ってきてませーん」って運転手に言うためだろ。
バンコクからカンボジアのシェムリアップ行きの国際バスを利用したときも置き去りにされた。場所はカンボジア側の国境の街ポイペトである。このときは、リュックは無事だった。これまでの経験から、バスを降りるときは荷物も持っていったほうがいいということを学んだのである。人間は成長する生き物なのである。
しかし、ポイペトというまったく勝手のわからない街に置き去りにされたことによって、さらに追い討ちをかけるようなひどい目に遭わされることになった。ポイペトの街をうろうろと歩いた。タイ国内のサービスエリアで置き去りにされたときはバンコク行きの別のバスをつかまえて乗せてもらえばよかった。が、ポイペトの場合はどうすればいいのか。シェムリアップ行きのバスがどこから出ているのかさっぱり見当もつかなかった。
屋台でご飯を食べていると、カンボジア人のおっさんが話しかけてきた。
「どうした? 何か困っているようだな」
「バンコクからシェムリアップ行きのバスに乗ってたんだけど、トイレで用を足している間に置き去りにされてしまったんだ。いったいどうすればいいのか……」
「何だって! そいつは大変だな。しかし、安心しろ。俺はバスのチケットを扱う仕事をしている。もちろん、シェムリアップ行きのバスのチケットだってあるぞ」
おっさんはテーブルの上に1枚の紙片を置いた。そして、そこに書かれているクメール語を指差して言った。
「ポイペト発のシェムリアップ行きと書かれている。バスターミナルはここをまっすぐに歩いたところにある」
「料金は?」
「本当は800バーツ(約3000円)するんだがな。おまえさん、困っているみたいだから、500バーツ(約1850円)に負けておいてやるよ」
「本当に? ありがとう!」
「いいってことよ」
食事を終えてからバスターミナルに向かった。そこにいたスタッフの男におっさんから買った紙片を見せると、彼は首を傾げた。
「何だ、これは?」
「シェムリアップに行きたいんだけど。これはバスのチケットだよね?」
「いいや、これはただの商品チラシだ。こんなものを俺に見せて、いったいどうするつもりだ」
「そ、そんな……」
筆者はおっさんにまんまと騙されたというわけである。ただの商品チラシを500バーツで買わされたというわけである。
「あのクソ野郎!」怒りに震えながらさっきの屋台にダッシュで戻ったのだが、もちろんそこにおっさんの姿はすでになかった。
【取材/撮影 : 小林ていじ】
しかし、筆者からすると、タイのバスで気をつけなくてはならないことは他にもある。サービスエリアで置き去りにされることである。
初めて置き去りにされたのは、タイの地方都市からバンコクへ戻るのに長距離バスを利用したときのこと。サービスエリアで止まったので、筆者はバスを降り、トイレで用を足し、食堂でご飯を食べた。そして駐車場に戻ると、バスはすでになかった。筆者のリュックだけを乗せてバンコクへ発ってしまったのである。
タイの長距離バスは乗客が全員そろっているかどうかなんて確認しない。出発の時間になれば、問答無用で出発してしまうのである。筆者はこれに懲りて、それ以降、サービスエリアでもなるべくバスを降りないようにしていた。が、どうしてもトイレに行きたくなってしまったことがあった。車掌は10分止まると言っている。すぐに用を足して戻ってくれば余裕で間に合うはず。筆者は意を決してバスを降りた。
トイレで用を足した。駐車場に戻るときに食堂の中を通った。大きな鍋の中で豚足がトロトロに煮込まれていた。これをご飯にのせて食べるカオカームーという料理。小腹が空いていた。見ているだけで口の中に唾が溜まってきた。すぐにバスに戻らなくてはならないのだが、食欲には抗えなかった。思い切って注文して急いで食べた。食事を終えて売店の前を通った。今度はお菓子を買いたくなってしまった。まだ時間は大丈夫のはずだし、ただお菓子を買うだけなら1分すらかからない。ポテチとコーラをとってレジに並んだ。少しだけ待たされて会計を済ませた。そして店の自動ドアをウィーンと抜けて外に出ると、まさにそのタイミングでバスがブロロロロと出発していた。もう走って間に合う感じでもなかったので、筆者のリュックを乗せて走り去るバスをただ呆然と見送るしかなかった。
しばらくしてから怒りが沸々と込み上げてきた。その矛先はバス車内で筆者の隣に座っていた男に向けられた。どうして筆者がまだ戻ってきていないことを運転手に言ってくれなかったのか。席にリュックが置きっ放しになっているのを見れば、筆者が途中下車したのではないことは明らかではないか。おまえのその口はいったい何のために付いているのか。ただ食べ物を食べるためか。違うだろ。隣の乗客がまだ戻ってきていないのにバスが出発しようとしているときに「隣の人がまだ戻ってきてませーん」って運転手に言うためだろ。
バンコクからカンボジアのシェムリアップ行きの国際バスを利用したときも置き去りにされた。場所はカンボジア側の国境の街ポイペトである。このときは、リュックは無事だった。これまでの経験から、バスを降りるときは荷物も持っていったほうがいいということを学んだのである。人間は成長する生き物なのである。
しかし、ポイペトというまったく勝手のわからない街に置き去りにされたことによって、さらに追い討ちをかけるようなひどい目に遭わされることになった。ポイペトの街をうろうろと歩いた。タイ国内のサービスエリアで置き去りにされたときはバンコク行きの別のバスをつかまえて乗せてもらえばよかった。が、ポイペトの場合はどうすればいいのか。シェムリアップ行きのバスがどこから出ているのかさっぱり見当もつかなかった。
屋台でご飯を食べていると、カンボジア人のおっさんが話しかけてきた。
「どうした? 何か困っているようだな」
「バンコクからシェムリアップ行きのバスに乗ってたんだけど、トイレで用を足している間に置き去りにされてしまったんだ。いったいどうすればいいのか……」
「何だって! そいつは大変だな。しかし、安心しろ。俺はバスのチケットを扱う仕事をしている。もちろん、シェムリアップ行きのバスのチケットだってあるぞ」
おっさんはテーブルの上に1枚の紙片を置いた。そして、そこに書かれているクメール語を指差して言った。
「ポイペト発のシェムリアップ行きと書かれている。バスターミナルはここをまっすぐに歩いたところにある」
「料金は?」
「本当は800バーツ(約3000円)するんだがな。おまえさん、困っているみたいだから、500バーツ(約1850円)に負けておいてやるよ」
「本当に? ありがとう!」
「いいってことよ」
食事を終えてからバスターミナルに向かった。そこにいたスタッフの男におっさんから買った紙片を見せると、彼は首を傾げた。
「何だ、これは?」
「シェムリアップに行きたいんだけど。これはバスのチケットだよね?」
「いいや、これはただの商品チラシだ。こんなものを俺に見せて、いったいどうするつもりだ」
「そ、そんな……」
筆者はおっさんにまんまと騙されたというわけである。ただの商品チラシを500バーツで買わされたというわけである。
「あのクソ野郎!」怒りに震えながらさっきの屋台にダッシュで戻ったのだが、もちろんそこにおっさんの姿はすでになかった。
【取材/撮影 : 小林ていじ】