2015年3月20日、タイ中央部の端にあるロッブリー県はひまわりや街中を徘徊する猿が有名な観光地だ。そんな観光地にHIVキャリアを無料で受け入れているプラバートナンプ寺がある。
ここの住職であるウドムプラチャートーン師が1994年にHIVキャリアやエイズ患者を受け入れ始めた。ここに入院する患者は貧困層の者が多く、家族や親戚が助けを求めて連れてくるケースや、身寄りがないため面倒を見きれなくなった者が患者を寺の前に捨てていくケースもある。
プラバートナンプ寺の境内にある病棟は第1施設で、近くの敷地にある第2施設には母子感染などでキャリアとなっている子どもの患者がいる。
タイは一時期「エイズ大国」などという不名誉な呼ばれ方をしていたが、現在はHIVの新規感染者もだいぶ減っている。政府や様々な慈善団体などの啓蒙活動でコンドームの使用率が上がっており、タイ公共保健省の統計では2013年のタイでのHIVが原因(タイの統計ではHIVとエイズを明確に分けていない)での死亡者数は5683人になっている。全体の死亡者数の1.33%に当たる。過去10年では2010年の死亡者が3638人だったので増加傾向にあるが、2004年の1万1473人から見れば半数になっている。
とはいえ、東京都健康安全研究センターの資料を見ると日本でのエイズ患者の死亡者数は50人から70人の間で推移している。また、日本の国立感染症研究所ウェブサイトによれば厚生労働省エイズ発生動向委員会が発表した2012年の新規報告数は1449件(無症候性キャリアの新規HIV感染者1002例、「いきなりエイズ」の新規エイズ患者447例)となっている。
タイではHIV感染者報告数は7万人台前半で推移しているので、依然タイはHIV感染のリスクが高い。
プラバートナンプ寺で収容しているHIVおよびエイズ患者は151人だ。医師は常駐でひとり、助手の看護師らが数名しかいない。しかし、日本人女性を含んだ外国人ボランティアが数名いることと、動ける患者は境内の施設で暮らしながら働くなど、タイ仏教の根底にある助け合いの心が機能していた。
動けない患者がいる病棟は陰鬱な雰囲気が漂っているのだろうと想像したが、ここもタイ人らしく患者も笑顔が絶えず、決して悲壮感はない。
境内には亡くなった方々が自分の意志で標本になることを望み、展示されている建物もある。HIVとエイズの苦しみを死後も語り、啓蒙している。
境内を掃除していた感染者に聞いたところでは、10年以上前はこの寺だけで月に10人も20人も亡くなっていたが、現在は月にひとりいるかいないかというところまで来ているという。
プラバートナンプ寺は有名な寺であるにも関わらず運営費用を賄えるほどの寄付が集まらないときもあり、存続の危機が時折ニュースになるが、その度になんとか危機を乗り越えている。
HIVが引き起こす苦しみはまだタイから消え去ったわけではないことを忘れないようにしたい。
【翻訳/編集 : 高田胤臣】
ここの住職であるウドムプラチャートーン師が1994年にHIVキャリアやエイズ患者を受け入れ始めた。ここに入院する患者は貧困層の者が多く、家族や親戚が助けを求めて連れてくるケースや、身寄りがないため面倒を見きれなくなった者が患者を寺の前に捨てていくケースもある。
プラバートナンプ寺の境内にある病棟は第1施設で、近くの敷地にある第2施設には母子感染などでキャリアとなっている子どもの患者がいる。
タイは一時期「エイズ大国」などという不名誉な呼ばれ方をしていたが、現在はHIVの新規感染者もだいぶ減っている。政府や様々な慈善団体などの啓蒙活動でコンドームの使用率が上がっており、タイ公共保健省の統計では2013年のタイでのHIVが原因(タイの統計ではHIVとエイズを明確に分けていない)での死亡者数は5683人になっている。全体の死亡者数の1.33%に当たる。過去10年では2010年の死亡者が3638人だったので増加傾向にあるが、2004年の1万1473人から見れば半数になっている。
とはいえ、東京都健康安全研究センターの資料を見ると日本でのエイズ患者の死亡者数は50人から70人の間で推移している。また、日本の国立感染症研究所ウェブサイトによれば厚生労働省エイズ発生動向委員会が発表した2012年の新規報告数は1449件(無症候性キャリアの新規HIV感染者1002例、「いきなりエイズ」の新規エイズ患者447例)となっている。
タイではHIV感染者報告数は7万人台前半で推移しているので、依然タイはHIV感染のリスクが高い。
プラバートナンプ寺で収容しているHIVおよびエイズ患者は151人だ。医師は常駐でひとり、助手の看護師らが数名しかいない。しかし、日本人女性を含んだ外国人ボランティアが数名いることと、動ける患者は境内の施設で暮らしながら働くなど、タイ仏教の根底にある助け合いの心が機能していた。
動けない患者がいる病棟は陰鬱な雰囲気が漂っているのだろうと想像したが、ここもタイ人らしく患者も笑顔が絶えず、決して悲壮感はない。
境内には亡くなった方々が自分の意志で標本になることを望み、展示されている建物もある。HIVとエイズの苦しみを死後も語り、啓蒙している。
境内を掃除していた感染者に聞いたところでは、10年以上前はこの寺だけで月に10人も20人も亡くなっていたが、現在は月にひとりいるかいないかというところまで来ているという。
プラバートナンプ寺は有名な寺であるにも関わらず運営費用を賄えるほどの寄付が集まらないときもあり、存続の危機が時折ニュースになるが、その度になんとか危機を乗り越えている。
HIVが引き起こす苦しみはまだタイから消え去ったわけではないことを忘れないようにしたい。
【翻訳/編集 : 高田胤臣】