2015年4月3日、タイの刑務所で服役中の日本人受刑者に話を聞いた。
年間のべ100万人以上の日本人が訪れるタイでは、日本人が被害に遭うだけでなく、日本人自身が加害者となる犯罪があとを絶たない。そのため、タイの刑務所にも日本人受刑者が相当数いる。
外交問題にも発展する可能性があるからなのか、タイ法務省に問い合わせても日本人受刑者の正確な人数は回答がない。正確に何人いるのかは不明だが、バンコクの隣、ノンタブリ県のバンクワン刑務所には3~5人の日本人受刑者がいる。
このバンクワン刑務所は終身刑や死刑囚、長期受刑者専用とされている。タイは死刑廃止国ではない。しかし2009年に2件の執行が6年ぶりに行われて以降、死刑執行は行われていない。タイは恩赦・特赦が多い国で、殺人などで死刑判決を受けても実質15年未満で満期出所となってしまう。
タイの刑務所は更生施設ではなく懲罰施設である。そのため生活環境は劣悪で、特に南国タイの高温多湿の気候は過酷である。面会した日本人受刑者Tは2002年に麻薬密輸の容疑で懲役30年の判決を受けた。
「以前は体がつくくらい詰め込まれて寝なければなりませんでしたが、今は仰向けで寝られるくらいに広くなりました」
エアコンも扇風機もない生活ではあるが、以前と比べればまだマシになったという。しかし、生活そのものはまだまだ甘くはない。
「外国人受刑者は労役が免除の代わりに日当は入りません。1日1食は支給されますが、タイ料理なので厳しいです」
ここではなんと自炊が許されている。外国人には辛かったり香草が苦手で食べられない受刑者もいる。タイ人でも毎日似たようなものは辛い。そんな受刑者たちは刑務所内にある売店で香辛料の少ないできあいの料理を買ったり、食材と七輪、炭を購入して自炊するのだ。バンクワンはタイで唯一自炊が許されている刑務所らしいが、これらはすべて自分の金で買わなければならない。
売店ではほかにも炭酸飲料やコーヒー、タバコ、石鹸、手紙を書くペンに紙など嗜好品や日用品も購入できる。ただし、どれもバンコク市内で購入するよりも1~2割は高い。
購入費用を受刑者が正統的に入手するには労役の報酬のほか、親族や支援者からの現金差し入れがある。外国人も親族や友人、支援団体などが差し入れてくれればいいが、ほとんどが家族に見捨てられている。そのため、刑務所内で商売などをして稼ぐことになる。差し入れや所持品を転売したり、ドーナッツなど甘いものをこしらえて販売する。タバコや切手は現金同様に使えるので需要が高い。
バンクワン刑務所はこの商売が行き過ぎてしまい、職員による汚職も発生した。家電やテレビ、麻薬、それに驚くべきことに携帯電話まで持ち込まれるようになった。
しかし2012年に所長が交代したり、法務省や警察庁本部により外部からの差し入れが全面禁止とされた。日本人受刑者Tも差し入れの転売でなんとか凌いでいたが、もうそれも不可能になった。
「刑務所の医務室では買えない喘息の薬まで手に入れることができなくなり、薬が切れたら死んでしまいます」
医薬品も自分で買わなければならず、日本人受刑者は残り数年となった刑期を全うできるのかすら危ぶまれている。彼が生きて出所するには2つの道がある。恩赦や特赦があと2回あれば3年程度で出られること。もうひとつは、2009年7月に日本と結ばれた「日タイ受刑者移送条約」に基づき、日本の刑務所に移送されることだ。
第一陣が2014年9月に移送され、彼も日本の刑務所に行くことを希望している。
【取材 : 高田胤臣】
年間のべ100万人以上の日本人が訪れるタイでは、日本人が被害に遭うだけでなく、日本人自身が加害者となる犯罪があとを絶たない。そのため、タイの刑務所にも日本人受刑者が相当数いる。
外交問題にも発展する可能性があるからなのか、タイ法務省に問い合わせても日本人受刑者の正確な人数は回答がない。正確に何人いるのかは不明だが、バンコクの隣、ノンタブリ県のバンクワン刑務所には3~5人の日本人受刑者がいる。
このバンクワン刑務所は終身刑や死刑囚、長期受刑者専用とされている。タイは死刑廃止国ではない。しかし2009年に2件の執行が6年ぶりに行われて以降、死刑執行は行われていない。タイは恩赦・特赦が多い国で、殺人などで死刑判決を受けても実質15年未満で満期出所となってしまう。
タイの刑務所は更生施設ではなく懲罰施設である。そのため生活環境は劣悪で、特に南国タイの高温多湿の気候は過酷である。面会した日本人受刑者Tは2002年に麻薬密輸の容疑で懲役30年の判決を受けた。
「以前は体がつくくらい詰め込まれて寝なければなりませんでしたが、今は仰向けで寝られるくらいに広くなりました」
エアコンも扇風機もない生活ではあるが、以前と比べればまだマシになったという。しかし、生活そのものはまだまだ甘くはない。
「外国人受刑者は労役が免除の代わりに日当は入りません。1日1食は支給されますが、タイ料理なので厳しいです」
ここではなんと自炊が許されている。外国人には辛かったり香草が苦手で食べられない受刑者もいる。タイ人でも毎日似たようなものは辛い。そんな受刑者たちは刑務所内にある売店で香辛料の少ないできあいの料理を買ったり、食材と七輪、炭を購入して自炊するのだ。バンクワンはタイで唯一自炊が許されている刑務所らしいが、これらはすべて自分の金で買わなければならない。
売店ではほかにも炭酸飲料やコーヒー、タバコ、石鹸、手紙を書くペンに紙など嗜好品や日用品も購入できる。ただし、どれもバンコク市内で購入するよりも1~2割は高い。
購入費用を受刑者が正統的に入手するには労役の報酬のほか、親族や支援者からの現金差し入れがある。外国人も親族や友人、支援団体などが差し入れてくれればいいが、ほとんどが家族に見捨てられている。そのため、刑務所内で商売などをして稼ぐことになる。差し入れや所持品を転売したり、ドーナッツなど甘いものをこしらえて販売する。タバコや切手は現金同様に使えるので需要が高い。
バンクワン刑務所はこの商売が行き過ぎてしまい、職員による汚職も発生した。家電やテレビ、麻薬、それに驚くべきことに携帯電話まで持ち込まれるようになった。
しかし2012年に所長が交代したり、法務省や警察庁本部により外部からの差し入れが全面禁止とされた。日本人受刑者Tも差し入れの転売でなんとか凌いでいたが、もうそれも不可能になった。
「刑務所の医務室では買えない喘息の薬まで手に入れることができなくなり、薬が切れたら死んでしまいます」
医薬品も自分で買わなければならず、日本人受刑者は残り数年となった刑期を全うできるのかすら危ぶまれている。彼が生きて出所するには2つの道がある。恩赦や特赦があと2回あれば3年程度で出られること。もうひとつは、2009年7月に日本と結ばれた「日タイ受刑者移送条約」に基づき、日本の刑務所に移送されることだ。
第一陣が2014年9月に移送され、彼も日本の刑務所に行くことを希望している。
【取材 : 高田胤臣】