2015年9月17日、HSBC投信は、インド市場を見る眼・現地からのリポートを公表した。
リポートによると、主なトピックスは、インド政府が外国人投資家に対する最低代替税の遡及適用を撤回したことと、GDP統計は緩やかな景気の回復を示唆していることの2つだ。
外国人投資家に対する障害を排除するため、インド政府は9月1日、外国人投資家に対する最低代替税(MAT)の遡及適用を撤回すると発表した。『最低代替税(MAT)とは会計上の利益の18.5%が法人税額(控除などを含めた税法上の算出額)を上回る場合に支払う税金。企業による最低限の納税を確実にするために1990年代半ばに導入されていた』
インド歳入庁は本年3月、外国籍ファンドに対して最低代替税の遡及課税通知を送付していた。外国人投資家はこれに強く反発、同税を巡る不透明感から多くの投資家が資金を引き揚げていた。しかし、その後、インド法律委員会は、同税の遡及課税を無効にすべく、インド所得税法を改正するよう提言。
財務省は、9月に入り、同委員会の提言を正式に受け入れることを明らかにした。政府の方針転換の背景には、世界的な株安の中で、8月は外国人投資家によるインド株式の売越額が過去最高に達していたことが挙げられる。最低代替税の遡及適用の撤回は、外国人投資家の資金流出を抑制したいという政府の意図の表れとも見られる。
なお、今回の決定は外国人投資家には歓迎されているが、インドの税制の予測困難性という点では不信感を残す結果ともなっている。
GDP統計は緩やかな景気の回復を示唆
2015年4-6月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比+7.0%となり、1-3月期の同+7.5%からやや減速した。政府支出、固定資本投資の伸びが加速したものの、個人消費の減速と純輸出のマイナス寄与により相殺された。
しかし、2015年4-6月期の粗付加価値(GVA:生産額から原材料費等を控除したもの)は前年同期比7.1%増加し、1-3月期の同6.1%増を上回った。農業、鉱業、建設業の付加価値額が顕著な増加を見せた一方で、製造業とサービス業は伸びが鈍化している。GDPとGVAを総合的に見て、インド経済は緩やかな回復を続けていると言える。但し、年初の想定に比べると回復力は弱い。これはインドに限らず、アジア全体、また世界全体でも見られる現象と言えよう。
<マーケットサマリー>
株式市場
最近の株価下落を受けて割安感強まる。8月のインド株式市場は軟調となり、SENSEX指数は前月末比-6.5%と下落した。海外要因として、中国の人民元切り下げと中国経済の減速懸念の高まり、米国の利上げを巡る不透明感、国内では降雨量の減少、モンスーン(夏季)国会での土地収用法改正案及び物品サービス税法案の不成立などが主な下落要因となった。
外国人投資家の売りが拡大する一方、国内ミューチュアルファンドには個人投資家からの高水準の資金流入が続いている。最近の株価下落を受けて、バリュエーションは魅力を増している。追加利下げや政府による新たな民間投資活性化策がインド株式の持続的上昇をもたらすことが期待される。
債券市場
年内に追加利下げの可能性高い。8月のインド債券市場は、10年物国債利回りが0.02%低下し7.79%で取引を終えた。モンスーン期(7月~9月)の降雨量は、9月9日時点で長期平均を15%下回っており、8月9日時点の9%を下回る水準から悪化している。
しかし、農作物の播種量は平年並みであり、食料品価格に影響を与える豆類の播種量は長期平均を5%上回る。また、在庫取り崩しなど供給サイドの政策が奏功したこともあり食料品価格の上昇は抑えられている。
インド準備銀行(中央銀行)は年内に1回追加利下げを行うと当社では予想している。2016年1月時点でインフレ率が目標値の6%(直近8月の消費者物価指数は前年同月比+3.7%)を大きく下回れば、来年も利下げ余地が拡大しよう。
為替市場
中国人民元切り下げを受け下落、中期的には堅調を予想
8月のインドルピーは、対米ドルで下落し前月末比-3.5%となった。米ドルが全面高となる中で、中国の人民元切り下げを受けて、インドルピーを含め、アジアを中心に新興国通貨が総じて下落した。
当面、ルピーは他のアジア通貨と同様に不安定な動きを続ける可能性がある。
しかし、中期的にはルピーに対する強気な見方を変えていない。米国とインドのインフレ率格差は縮小傾向にある。インドにとり、ルピー安により競争力維持を図る必要性は低下している。また、原油安、潤沢な外貨準備、経常収支赤字の縮小などが引き続きルピーを支える要因となる。
インドルピーは1米ドル=62~65ルピー(9月16日終値は66.46ルピー)のレンジ内の堅調な推移を続けると見ている。
【編集 : TY】
リポートによると、主なトピックスは、インド政府が外国人投資家に対する最低代替税の遡及適用を撤回したことと、GDP統計は緩やかな景気の回復を示唆していることの2つだ。
外国人投資家に対する障害を排除するため、インド政府は9月1日、外国人投資家に対する最低代替税(MAT)の遡及適用を撤回すると発表した。『最低代替税(MAT)とは会計上の利益の18.5%が法人税額(控除などを含めた税法上の算出額)を上回る場合に支払う税金。企業による最低限の納税を確実にするために1990年代半ばに導入されていた』
インド歳入庁は本年3月、外国籍ファンドに対して最低代替税の遡及課税通知を送付していた。外国人投資家はこれに強く反発、同税を巡る不透明感から多くの投資家が資金を引き揚げていた。しかし、その後、インド法律委員会は、同税の遡及課税を無効にすべく、インド所得税法を改正するよう提言。
財務省は、9月に入り、同委員会の提言を正式に受け入れることを明らかにした。政府の方針転換の背景には、世界的な株安の中で、8月は外国人投資家によるインド株式の売越額が過去最高に達していたことが挙げられる。最低代替税の遡及適用の撤回は、外国人投資家の資金流出を抑制したいという政府の意図の表れとも見られる。
なお、今回の決定は外国人投資家には歓迎されているが、インドの税制の予測困難性という点では不信感を残す結果ともなっている。
GDP統計は緩やかな景気の回復を示唆
2015年4-6月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比+7.0%となり、1-3月期の同+7.5%からやや減速した。政府支出、固定資本投資の伸びが加速したものの、個人消費の減速と純輸出のマイナス寄与により相殺された。
しかし、2015年4-6月期の粗付加価値(GVA:生産額から原材料費等を控除したもの)は前年同期比7.1%増加し、1-3月期の同6.1%増を上回った。農業、鉱業、建設業の付加価値額が顕著な増加を見せた一方で、製造業とサービス業は伸びが鈍化している。GDPとGVAを総合的に見て、インド経済は緩やかな回復を続けていると言える。但し、年初の想定に比べると回復力は弱い。これはインドに限らず、アジア全体、また世界全体でも見られる現象と言えよう。
<マーケットサマリー>
株式市場
最近の株価下落を受けて割安感強まる。8月のインド株式市場は軟調となり、SENSEX指数は前月末比-6.5%と下落した。海外要因として、中国の人民元切り下げと中国経済の減速懸念の高まり、米国の利上げを巡る不透明感、国内では降雨量の減少、モンスーン(夏季)国会での土地収用法改正案及び物品サービス税法案の不成立などが主な下落要因となった。
外国人投資家の売りが拡大する一方、国内ミューチュアルファンドには個人投資家からの高水準の資金流入が続いている。最近の株価下落を受けて、バリュエーションは魅力を増している。追加利下げや政府による新たな民間投資活性化策がインド株式の持続的上昇をもたらすことが期待される。
債券市場
年内に追加利下げの可能性高い。8月のインド債券市場は、10年物国債利回りが0.02%低下し7.79%で取引を終えた。モンスーン期(7月~9月)の降雨量は、9月9日時点で長期平均を15%下回っており、8月9日時点の9%を下回る水準から悪化している。
しかし、農作物の播種量は平年並みであり、食料品価格に影響を与える豆類の播種量は長期平均を5%上回る。また、在庫取り崩しなど供給サイドの政策が奏功したこともあり食料品価格の上昇は抑えられている。
インド準備銀行(中央銀行)は年内に1回追加利下げを行うと当社では予想している。2016年1月時点でインフレ率が目標値の6%(直近8月の消費者物価指数は前年同月比+3.7%)を大きく下回れば、来年も利下げ余地が拡大しよう。
為替市場
中国人民元切り下げを受け下落、中期的には堅調を予想
8月のインドルピーは、対米ドルで下落し前月末比-3.5%となった。米ドルが全面高となる中で、中国の人民元切り下げを受けて、インドルピーを含め、アジアを中心に新興国通貨が総じて下落した。
当面、ルピーは他のアジア通貨と同様に不安定な動きを続ける可能性がある。
しかし、中期的にはルピーに対する強気な見方を変えていない。米国とインドのインフレ率格差は縮小傾向にある。インドにとり、ルピー安により競争力維持を図る必要性は低下している。また、原油安、潤沢な外貨準備、経常収支赤字の縮小などが引き続きルピーを支える要因となる。
インドルピーは1米ドル=62~65ルピー(9月16日終値は66.46ルピー)のレンジ内の堅調な推移を続けると見ている。
【編集 : TY】