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【カンボジア】内戦の空白を埋めた伝統医療を支援 ー日本財団

Global News Asia 2015年9月24日 22時0分

 2015年9月24日、日本財団が発行するメールマガジンは「内戦の空白を埋めた伝統医療」について伝えた。

 『クル・クメールが大きな役割、今後の国民医療にどう活かす? 』

 途上国のプライマリー・ヘルス・ケアの一翼を担う伝統医療。WHO(世界保健機関)とも協力してアジア各国での普及に取り組む日本財団は、カンボジアでも2008年度から5年間、同保健省が主催した伝統医療師「クル・クメール」(クメールの先生)の再研修を支援、全国から集まった計342人が「修了証」を受け、「カンボジア伝統医療師協会」(CaTHA)のネットワークを形成している。

 この国ではポル・ポト時代に医師が大量に粛清され、深刻な医師不足の中、地域医療の多くを現在もクル・クメールが担う。伝統医療の見直しが世界の潮流となる中、小学校に「薬草園」を設け普及を図る新しい試みも始まっており、今後、国民医療の中にどこまで伝統医療を組み込むかが焦点となっている。

 カンボジア伝統医療の源は9~13世紀に栄えたクメール王朝時代に遡る。各地に自生する薬用植物は約2000種類に上り、うち3、4種類、時に動物、鉱物資源も加え10種類以上を配合して高血圧や胃腸炎、肝機能障害、産後体調不良、関節痛など主として慢性疾患の治療に使われている。製法はクル・クメールの家に代々、伝えられ、寺院の書庫などに資料が保管されていたが内戦時代に大半が失われた。

 CaTHAが編纂した資料によると、ポル・ポト政権が誕生した1975年に全国で2000人に上った医師や薬剤師、歯科医師、助産師の約80%が粛清で命を失った。各地のクル・クメールが地域医療を支え、保健省も一時期、伝統医療製薬工場を立ち上げるなど育成策を打ち出した。しかし91年の内戦終結以降、国際社会の支援が活発になったこともあって医療の西洋化が図られ、「伝統薬は科学的根拠が乏しい」などとして公的医療機関での使用が禁止された。

 現在、カンボジアの医療態勢は病院90ヶ所、看護師と助産師が常駐する保健センターが1000カ所、医師数は約2200人。人口1500万人のこの国に絶対数の不足は否めず、一方で欧米でも膨張する医療費の抑制策として伝統医療に対する注目が高まっている。加えてカンボジアでは長い内戦で医療体制の整備が遅れた分、他のASEAN諸国に比べ伝統医療がより多く残される結果となった。

 こうした背景を受け、あらためてクル・クメールの存在が注目され、日本財団でも2008年度から5カ年計画で保健省伝統医療局と協力、カンボジア国立伝統医療学校で地域ごとの伝統医療モデルの構築や薬用植物のサンプル収集、地域の現代医療と伝統医療の連携強化などを中心にクル・クメールの再教育を進め、342人が修了証を手にした。

 CaTHAでは現在、伝統医療に対する正しい知識の普及に向け、伝統医療を分かりやすく説明した冊子の作成進め、最終的にクメール語、日本語、英語版各100冊を用意、配布するほか、児童や地域住民を通じて伝統医療に対する理解を広げるため地域の公立学校での薬草園作りに乗り出している。

 9月5日、伝統医療局技術顧問でCaTHAアドバイザーでもある高田忠典氏の案内で、南部カンポット州のカンポンクレイン小学校の薬草園を訪れた。児童数約200人、この地域で伝統医薬品の材料に使われる薬草は約170種類に上るという。池を挟んだ校庭には、地域の代表的な薬草や樹木12種類が並び、一つひとつに分かり易い案内板が付されていた。年度末休暇中で児童の姿はなかったが、立ち会ってくれたバルトーン校長は「将来を担う子どもたちの理解が深まれば、その分、伝統医療も広がる」と語った。

 伝統医療の活用に向けた日本財団のプロジェクトは、WHOが2003年から中央アジア15カ国で進めた薬用植物調査の支援に始まり、以後、伝統医療国際会議の開催などを経て、現在はモンゴル、タイ、ミャンマーで伝統医薬品の「置き薬」配布事業を実施している。

 カンボジアの現状について高田氏は「WHOの推計によると国民の70%以上が伝統医療を利用しており、首都プノンペンには生薬の問屋街もある」と説明、現代医療と伝統医療が補完し合う形に、この国の医療の将来を見ている。

【出典 : 日本財団ブログ「ソーシャルイノベーション探訪」】

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