2016年2月12日、日本の歯医者さんがシャン州にやってきた(2)
シャン州の子どもたちに歯科健診ボランティアをする日本の歯医者さんたち12人。東京を出発してから3日目の早朝、一行はインレー湖南部のモービー桟橋にいた。一般的な観光ツアーだと、湖の北端ニャウン・シュエ町の船着場からボートで小一時間の船旅に繰り出す。巨大水上寺院ファウンドーウー・パゴダや湖上の伝統織物工房を巡る人気コースだ。時折、片足立ちで器用に櫂を操るインダー族の漁師にも遭遇できる。一方、日本人歯科医師のTOOTH FAIRYボランティア一行が目指したのは、南北に細長いインレー湖の南端に位置するロンカン村だ。
日本歯科医師会と日本財団が実施している「TOOTH FAIRYプロジェクト」は、歯科治療で不要になった金属をリサイクルして得た資金で、国内外の子どもたちを支援している。ミャンマーでは、これまでに18校の学校が建設された。前回に引き続き(※)、TOOTH FAIRYミャンマーボランティアツアーに密着する。
5人乗りの船外機付きボートでひたすら南下すること1時間。一行はロンカン村に到着した。船着場からTOOTH FAIRYの支援で建設されたロンカン中学校までの数百メートル。道の両側に村の住民や子どもたちが歓迎の列を作り出迎えてくれた。ロンカン村には、インダー族、シャン族、パオ族、と3つの少数民族158世帯750人が暮らしている。道端は、ピンクや黄色、濃紺とそれぞれの民族衣装を身に纏った住民、緑と白の制服の子どもたちで彩られていた。
一行は、まず村の家庭を訪問。食生活や歯みがき習慣など生活状況の調査をすることになった。今回収集したデータは、今後の問診やボランティアの指標とし、ミャンマー歯科医師会への情報提供も視野に入れていると言う。訪問先で歯科医師たちが気付いたのは、虫歯の多さに反して、歯みがき習慣はあるということ。小作農で日雇い収入が約250円の家庭でも、歯ブラシと歯みがき粉はあった。村の五日市に出店する日用雑貨店では、約50円の歯ブラシと160グラム約80円のミャンマー製歯みがき粉が購入できるそうだ。ただし、今回の訪問先では、歯みがきの頻度は1日に1回。また使用している歯ブラシは長いこと取り替えられておらず、完全に開ききっていた。さらに、大人になると「コンヤ」と呼ばれる口の中が真っ赤になる噛みタバコの愛飲者も増え、歯の着色が目立った。歯みがき習慣はあっても、正しく磨けていないケースが多いようだ。
食べた後の磨き残しは、それだけで虫歯リスク高めてしまう。高齢者の訪問診療の専門家でもある前田龍一先生は、「多くの家庭で、子どもに朝食や間食にとても甘いインスタントのコーヒー・紅茶ミックスを飲ませていることがわかった。小さいうちから甘いものに対する感覚がついてしまうのではないか」と最近の子どもたちの生活習慣を危惧。適切な磨き方の必要性を指摘した。
生活状況の調査を終えた一行は、ロンカン中学校に戻った。小児歯科・スポーツ歯科にも精通し、4年連続の参加となる小山和彦先生から「TOOTH FAIRYの校舎で、みなさんがしっかり勉強をして世界を素晴らしくしていってほしいです。そのために、少しでも私たち歯科医師がお手伝いできればと思います。私たちが、今日みなさんの口の中を診させてもらうことで、みなさんの健康に役立つことができれば嬉しいです」と挨拶があり、いよいよ歯科健診がスタートした。
歯科医師たちは、健診担当、記録用健診フォーム記入担当、歯の状態チェックシート記入担当と3人1組で、各担当をローテーションさせながら、小学生から中学生まで9学年370人の健診をすることとなった。初めての歯科健診に緊張しつつも興味を隠しきれない子どもたちが行列を作った。きれいな歯の状態の子がいる一方、虫歯だらけの子も多い。宮崎から2回目の参加となる葉清貴先生は、「通常ならば抜歯しなければならない程、乳歯の奥歯の虫歯が大きいので、本来の生え変わる時期の前にボロボロなっている子も何人かいた。そのため、これからは噛み合わせや歯並び・顎関節症などの、この地域で今まではあまり問題とされなかった口腔内の問題が出てくるのではないか」とシャン州の子どもたちの歯の状態を分析した。
健診が終わり帰路に就く歯科医師たちを、子どもたちが船着場まで元気いっぱい見送ってくれた。今回のTOOTH FAIRYボランティアツアーでは、2日間で650人以上の子どもたちの歯科健診を実施。初めて「歯医者さん」を見た子どもたちが、少しでも「歯を大切にする」意識を持つきっかけになれば、というのが今回ボランティアに取り組んだ歯科医師たちの願いだ。もし、通っている歯科医院で、ピンク色の妖精ステッカーを見かけたら、そこはTOOTH FAIRYプロジェクト参加医院だ。あなたの歯科治療が、確実にミャンマーの子どもたちの笑顔につながっている。
(※)2016年1月29日配信「子どもたちの未来のために、学校教育支援(7)」参照。リンクは関連記事にあります。
【執筆 : 日本財団 田中麻里】
シャン州の子どもたちに歯科健診ボランティアをする日本の歯医者さんたち12人。東京を出発してから3日目の早朝、一行はインレー湖南部のモービー桟橋にいた。一般的な観光ツアーだと、湖の北端ニャウン・シュエ町の船着場からボートで小一時間の船旅に繰り出す。巨大水上寺院ファウンドーウー・パゴダや湖上の伝統織物工房を巡る人気コースだ。時折、片足立ちで器用に櫂を操るインダー族の漁師にも遭遇できる。一方、日本人歯科医師のTOOTH FAIRYボランティア一行が目指したのは、南北に細長いインレー湖の南端に位置するロンカン村だ。
日本歯科医師会と日本財団が実施している「TOOTH FAIRYプロジェクト」は、歯科治療で不要になった金属をリサイクルして得た資金で、国内外の子どもたちを支援している。ミャンマーでは、これまでに18校の学校が建設された。前回に引き続き(※)、TOOTH FAIRYミャンマーボランティアツアーに密着する。
5人乗りの船外機付きボートでひたすら南下すること1時間。一行はロンカン村に到着した。船着場からTOOTH FAIRYの支援で建設されたロンカン中学校までの数百メートル。道の両側に村の住民や子どもたちが歓迎の列を作り出迎えてくれた。ロンカン村には、インダー族、シャン族、パオ族、と3つの少数民族158世帯750人が暮らしている。道端は、ピンクや黄色、濃紺とそれぞれの民族衣装を身に纏った住民、緑と白の制服の子どもたちで彩られていた。
一行は、まず村の家庭を訪問。食生活や歯みがき習慣など生活状況の調査をすることになった。今回収集したデータは、今後の問診やボランティアの指標とし、ミャンマー歯科医師会への情報提供も視野に入れていると言う。訪問先で歯科医師たちが気付いたのは、虫歯の多さに反して、歯みがき習慣はあるということ。小作農で日雇い収入が約250円の家庭でも、歯ブラシと歯みがき粉はあった。村の五日市に出店する日用雑貨店では、約50円の歯ブラシと160グラム約80円のミャンマー製歯みがき粉が購入できるそうだ。ただし、今回の訪問先では、歯みがきの頻度は1日に1回。また使用している歯ブラシは長いこと取り替えられておらず、完全に開ききっていた。さらに、大人になると「コンヤ」と呼ばれる口の中が真っ赤になる噛みタバコの愛飲者も増え、歯の着色が目立った。歯みがき習慣はあっても、正しく磨けていないケースが多いようだ。
食べた後の磨き残しは、それだけで虫歯リスク高めてしまう。高齢者の訪問診療の専門家でもある前田龍一先生は、「多くの家庭で、子どもに朝食や間食にとても甘いインスタントのコーヒー・紅茶ミックスを飲ませていることがわかった。小さいうちから甘いものに対する感覚がついてしまうのではないか」と最近の子どもたちの生活習慣を危惧。適切な磨き方の必要性を指摘した。
生活状況の調査を終えた一行は、ロンカン中学校に戻った。小児歯科・スポーツ歯科にも精通し、4年連続の参加となる小山和彦先生から「TOOTH FAIRYの校舎で、みなさんがしっかり勉強をして世界を素晴らしくしていってほしいです。そのために、少しでも私たち歯科医師がお手伝いできればと思います。私たちが、今日みなさんの口の中を診させてもらうことで、みなさんの健康に役立つことができれば嬉しいです」と挨拶があり、いよいよ歯科健診がスタートした。
歯科医師たちは、健診担当、記録用健診フォーム記入担当、歯の状態チェックシート記入担当と3人1組で、各担当をローテーションさせながら、小学生から中学生まで9学年370人の健診をすることとなった。初めての歯科健診に緊張しつつも興味を隠しきれない子どもたちが行列を作った。きれいな歯の状態の子がいる一方、虫歯だらけの子も多い。宮崎から2回目の参加となる葉清貴先生は、「通常ならば抜歯しなければならない程、乳歯の奥歯の虫歯が大きいので、本来の生え変わる時期の前にボロボロなっている子も何人かいた。そのため、これからは噛み合わせや歯並び・顎関節症などの、この地域で今まではあまり問題とされなかった口腔内の問題が出てくるのではないか」とシャン州の子どもたちの歯の状態を分析した。
健診が終わり帰路に就く歯科医師たちを、子どもたちが船着場まで元気いっぱい見送ってくれた。今回のTOOTH FAIRYボランティアツアーでは、2日間で650人以上の子どもたちの歯科健診を実施。初めて「歯医者さん」を見た子どもたちが、少しでも「歯を大切にする」意識を持つきっかけになれば、というのが今回ボランティアに取り組んだ歯科医師たちの願いだ。もし、通っている歯科医院で、ピンク色の妖精ステッカーを見かけたら、そこはTOOTH FAIRYプロジェクト参加医院だ。あなたの歯科治療が、確実にミャンマーの子どもたちの笑顔につながっている。
(※)2016年1月29日配信「子どもたちの未来のために、学校教育支援(7)」参照。リンクは関連記事にあります。
【執筆 : 日本財団 田中麻里】