2016年3月11日、農業で教育に貢献。
シャン州の州都タウンジーから車で40分。210世帯884人が暮らすコンニュン村を訪れた。約6割がパオ族で、シャン族、ダヌー族、ビルマ族が続く。複数の少数民族が住む村だ。村の僧院では、地域で入手できる自然の材料を使った堆肥作りの研修会が行われていた。ミャンマー語での説明の中、何度も「ドチャクキン」という単語が聞こえてきた。日本語の「土着菌(堆肥)」(※1)という言葉をそのまま使っているそうだ。
シャン州で地域住民と一緒に学校建設事業に取り組む現地NGOセダナーは、校舎完成後の学校運営についても、地域住民の力で解決することを目指している。校舎建設時の住民による労働奉仕が労賃として換算され、これを元手にして、校舎建設後に地域開発事業が実施される。その収益が、校舎の補修、必要教材・備品の購入、補助教員の雇用など、学校運営に充てられる仕組みだ。この地域開発事業として、共同農園の運営を希望する村も多い。
農業による地域開発事業に取り組む村に対して、セダナーは、土着菌堆肥やボカシ堆肥(※2)、木酢液などの自然農薬の製造法デモンストレーションと利用法の指導など農業改良普及活動を実施している。コンニュン村では、人々から尊敬を集めるトゥ・ラ・ニャナ住職が、この地域開発事業に高い関心を持っており、僧院敷地内を堆肥作りと農業指導の場として提供してくれている。
セダナーで農業事業を統括するのは、ミャンマー農業省に34年間勤めたベテラン農業専門家のクワ・ハラン職員。2015年度には、コンニュン村を始めとする5つの村で農業指導を行った。「はじめのうち農家は、私たちが教える新しい技術についてはあまり信用していませんでした」とのこと。しかしながら、セダナーの研修会で学んだ自然農薬を実際に自分たちの畑で活用したところ、その効果を実感する農家が多かったそうだ。「この5つの村で、土着菌堆肥、木酢液堆肥、ボカシ堆肥を活用している農家は増加しました。今後も化学肥料や殺虫剤の使用量を減らし、有機農法を参考にする農家を増やすことを目指します」と意気込みを語った。
また、米どころミャンマーならではの取組み。稲作の指導にも力を入れている。伝統的なミャンマーの農法では苗床で40日育成した苗で稲作を行っているが、セダナーが農家に指導しているのは、SRI稲作(System of Rice Intensification: 稲集約栽培法)という農法。SRI稲作は10日間育成の苗を使用。この農法だと、苗床から水田に移植する際に約7,400円(0.5エーカーの場合)の経費が抑えられる上に、生産性を高めることが可能となる。
2015年度にはモデル農家10名を選び、SRI稲作も実践。各農家の水田0.5エーカーにて、SRI稲作が実践された。セダナーからは、農業指導に加え、モデル農家1人当たり堆肥代や農機具代約8,700円を支援している。
モデル農家の1人、フォー・ナンさんは、「最初は、種をまいてから10日後の苗床を植えるなんて絶対に成功しないと思っていたけど、今ではこの農法が効果的なことを実感している」と語る。モデル農家での収穫量増加を見て、SRI稲作を希望する農家も出てきた。
フォー・ナンさんは稲作の他にトウガラシを栽培している。こちらは栽培を始める際に、セダナーの研修会で学んだバナナを発酵させたボカシ堆肥を使用することで、4ヶ月で約12万円の収入を得ることができた。これは村の平均年収に相当する。「同じ畑で、1年に3回違う作物を作れるので、次回はカリフラワー栽培を予定しています」と嬉しそうに今後の計画を教えてくれた。
2年目以降の経費は自己負担となるが、今年始めたモデル農家10名は、いずれもSRI稲作の効果を実感している。「少なくとも今後3年は確実に続ける」と決意を口々にした。
村の教育を支えるのは村の人々だ。地域の収入が増加すれば、それだけ教育への投資も増える。360人が通うコンニュン中学校分校では、農業事業の収益と村の資金で補助教員を雇用している。校舎の簡単な修繕や教員への食糧補助もこの地域開発事業の収益を活用している。農業の発展が、教育の発展につながっている。
(※1)各地域の山や田畑に生息する微生物を堆肥として活用することで、土中の微量元素を調整したり、植物の肥料吸収を高めたり、病原菌を撃退する働きがあると言われている。
(※2)土に鶏糞、油粕、米ぬか、魚粕、燻炭などの有機物、過リン酸石灰などの肥料を積み重ねて発酵させた肥料のこと。
【執筆 : 日本財団 田中麻里】
シャン州の州都タウンジーから車で40分。210世帯884人が暮らすコンニュン村を訪れた。約6割がパオ族で、シャン族、ダヌー族、ビルマ族が続く。複数の少数民族が住む村だ。村の僧院では、地域で入手できる自然の材料を使った堆肥作りの研修会が行われていた。ミャンマー語での説明の中、何度も「ドチャクキン」という単語が聞こえてきた。日本語の「土着菌(堆肥)」(※1)という言葉をそのまま使っているそうだ。
シャン州で地域住民と一緒に学校建設事業に取り組む現地NGOセダナーは、校舎完成後の学校運営についても、地域住民の力で解決することを目指している。校舎建設時の住民による労働奉仕が労賃として換算され、これを元手にして、校舎建設後に地域開発事業が実施される。その収益が、校舎の補修、必要教材・備品の購入、補助教員の雇用など、学校運営に充てられる仕組みだ。この地域開発事業として、共同農園の運営を希望する村も多い。
農業による地域開発事業に取り組む村に対して、セダナーは、土着菌堆肥やボカシ堆肥(※2)、木酢液などの自然農薬の製造法デモンストレーションと利用法の指導など農業改良普及活動を実施している。コンニュン村では、人々から尊敬を集めるトゥ・ラ・ニャナ住職が、この地域開発事業に高い関心を持っており、僧院敷地内を堆肥作りと農業指導の場として提供してくれている。
セダナーで農業事業を統括するのは、ミャンマー農業省に34年間勤めたベテラン農業専門家のクワ・ハラン職員。2015年度には、コンニュン村を始めとする5つの村で農業指導を行った。「はじめのうち農家は、私たちが教える新しい技術についてはあまり信用していませんでした」とのこと。しかしながら、セダナーの研修会で学んだ自然農薬を実際に自分たちの畑で活用したところ、その効果を実感する農家が多かったそうだ。「この5つの村で、土着菌堆肥、木酢液堆肥、ボカシ堆肥を活用している農家は増加しました。今後も化学肥料や殺虫剤の使用量を減らし、有機農法を参考にする農家を増やすことを目指します」と意気込みを語った。
また、米どころミャンマーならではの取組み。稲作の指導にも力を入れている。伝統的なミャンマーの農法では苗床で40日育成した苗で稲作を行っているが、セダナーが農家に指導しているのは、SRI稲作(System of Rice Intensification: 稲集約栽培法)という農法。SRI稲作は10日間育成の苗を使用。この農法だと、苗床から水田に移植する際に約7,400円(0.5エーカーの場合)の経費が抑えられる上に、生産性を高めることが可能となる。
2015年度にはモデル農家10名を選び、SRI稲作も実践。各農家の水田0.5エーカーにて、SRI稲作が実践された。セダナーからは、農業指導に加え、モデル農家1人当たり堆肥代や農機具代約8,700円を支援している。
モデル農家の1人、フォー・ナンさんは、「最初は、種をまいてから10日後の苗床を植えるなんて絶対に成功しないと思っていたけど、今ではこの農法が効果的なことを実感している」と語る。モデル農家での収穫量増加を見て、SRI稲作を希望する農家も出てきた。
フォー・ナンさんは稲作の他にトウガラシを栽培している。こちらは栽培を始める際に、セダナーの研修会で学んだバナナを発酵させたボカシ堆肥を使用することで、4ヶ月で約12万円の収入を得ることができた。これは村の平均年収に相当する。「同じ畑で、1年に3回違う作物を作れるので、次回はカリフラワー栽培を予定しています」と嬉しそうに今後の計画を教えてくれた。
2年目以降の経費は自己負担となるが、今年始めたモデル農家10名は、いずれもSRI稲作の効果を実感している。「少なくとも今後3年は確実に続ける」と決意を口々にした。
村の教育を支えるのは村の人々だ。地域の収入が増加すれば、それだけ教育への投資も増える。360人が通うコンニュン中学校分校では、農業事業の収益と村の資金で補助教員を雇用している。校舎の簡単な修繕や教員への食糧補助もこの地域開発事業の収益を活用している。農業の発展が、教育の発展につながっている。
(※1)各地域の山や田畑に生息する微生物を堆肥として活用することで、土中の微量元素を調整したり、植物の肥料吸収を高めたり、病原菌を撃退する働きがあると言われている。
(※2)土に鶏糞、油粕、米ぬか、魚粕、燻炭などの有機物、過リン酸石灰などの肥料を積み重ねて発酵させた肥料のこと。
【執筆 : 日本財団 田中麻里】