2017年7月5日、HSBC投信は、インドの歴史的な税制改革について伝えた。
(レポート)インドで2017年7月1日、物品サービス税(GST)が導入された。これは1947年の独立以来最大の税制改革であり、これまで中央政府、州政府、地方政府が各々課してきた複雑な間接税を全国的に統一するものである。14の異なる税が一本化されることで、ビジネス環境、ビジネスの容易さが大幅に改善することが見込まれる。
GST方式の全国横断的な物品税の構想は、2000年にインド人民党(BJP、現在はモディ首相率いる国政与党)政権下で作成され、2006年度(2006年4月-2007年3月)予算案にその提案が盛り込まれた。その後、政権を担当した国民会議派(現在最大野党)は、2010年からのGST導入を計画したものの、実現に向けた準備は進まなかった。2014年の総選挙でモディ政権が誕生すると、憲法改正を含むGST導入への動きが進展し、本年7月からの開始に至っている。
実際、GSTは政策当局にとり極めて困難な課題であった。これまでインドでは、憲法の規定に基づき、製品に対する課税権(対製造業者、小売業者)は中央政府及び州政府に、サービスに対する課税権は中央政府のみに与えられていた。GSTを導入するためには、まず29の全ての州が製品への課税権を放棄する必要があった。
しかも、インド各州では、様々な国政レベル、地方レベルの政党が勢力を握っており、異なる利害を巡り対立していたことから、事態は一層複雑であった。こうした中で、モディ政権は、各州で次々と政治的コンセンサスを形成し、GST導入の実現にまでこぎつけたのである。
GSTがインド経済の潮流を変える
物品サービス税(GST)は、インド経済の構造変革に大きく寄与すると見られる。第一に、GSTはより多くのビジネスを公式な税体系に取り込み、インドの非公式経済の公式化を促すことが見込まれる。これは低水準にある税収の対国内総生産(GDP)比の向上にもつながるだろう。また、GST自体は税収中立を想定しおり、短期的には税収効果は見込み難いが、長期的には税法令の遵守レベルの改善にともない、大幅な税収増が期待できる。
第二に、GSTは、州境税を撤廃することで「単一市場」の創設を可能にする。これは州をまたぐビジネスを手掛けるインド企業に対し、物流面での大きな障害を取り除くことになる。
第三に、GST導入により、累積税が廃止され、サプライチェーンが効率化するため、国内の製造業は輸入品に対する競争力を強化できる。
GST はなお進化の過程
物品サービス税(GST)導入の主な目的は、複雑な税体系の簡素化によるビジネス環境の改善、ITを利用
した税法令遵守レベルの改善、税収中立の維持による財政均衡化とインフレ抑制にある。
しかしながら、現行のGSTは、なお理想的な内容とはなっていない。何段階にも分かれた税率、ガソリン、アルコール飲料、不動産など重要品目の対象からの適用除外、新たな税法令遵守規定の必要性、などいくつもの分野で妥協が見られ、結果的に当初見込まれていたGST導入の効果は制限されることになった。
当局は、GST導入により、租税関連の煩雑な手続きを簡素化することを試みたが、この点に関しても不十分であり、中央政府と州政府がともにGSTの法令遵守を監視することになった。
さらに、今後5年間にわたり州政府の税収不足を補うとの合意は、税率の引き下げを制限する結果をもたらしている。税法令遵守についても、各州の課税権を失うことへの懸念や税当局と納税者との間の不信感などが原因で、当初想定された簡素化は実現していない。但し、今後、GSTの恩恵がより理解されるようになれば、将来的に改善の余地が広がるだろう。
短期的には混乱するも、半年後には正常化
7月1日に物品サービス税(GST)が導入されたが、短期的には、一部で混乱が生じる可能性がある。組織化
が進んだ大企業は新たな税体系への対応準備ができているが、組織化が遅れた中小企業は、在庫調整や新税率適用などを含め、対応がより難しいと見られる。また、短期的には、最終消費者に直接販売を行う企業は混乱に直面する可能性が高いが、企業向け販売(B2B)は問題が少ないだろう。
新たな税体系、税法令遵守への移行期は困難を伴うだろうが、半年後には、状況は正常化していると当社は見ている。
GSTは、公式経済への移行度合が増すごとに、中長期的にGDP成長率を押し上げることが見込まれる。また、GSTは、短期的にはインフレに与える影響は軽微ながら、長期的には物流コストの低減などからインフレ率を押し下げる効果が表れよう。
結論として、GSTはインド経済の潮流を変えるほどの大改革であり、短期的には混乱が生じるものの、その真のプラス効果が、今後2~3年の間にインド経済、産業、市場に表れてくることが期待できる。
当社の投資戦略
GST導入後も当社では投資戦略を基本的に変更しない。引き続き収益性とバリュエーションの両面で妙味がある銘柄に焦点を当てた投資を行う方針。
但し、一般消費財セクターは、GST導入により、累積税の廃止、サプライチェーンの効率化(州境の納税手続き撤廃など)、物流コストの低減などの恩恵を直接受けることから、特に注目している。
また、金融及び不動産セクターは、GST導入に伴う、非公式経済から公式経済への比重のシフトから間接的に恩恵を受けることが見込まれる。
【編集 : AG】
(レポート)インドで2017年7月1日、物品サービス税(GST)が導入された。これは1947年の独立以来最大の税制改革であり、これまで中央政府、州政府、地方政府が各々課してきた複雑な間接税を全国的に統一するものである。14の異なる税が一本化されることで、ビジネス環境、ビジネスの容易さが大幅に改善することが見込まれる。
GST方式の全国横断的な物品税の構想は、2000年にインド人民党(BJP、現在はモディ首相率いる国政与党)政権下で作成され、2006年度(2006年4月-2007年3月)予算案にその提案が盛り込まれた。その後、政権を担当した国民会議派(現在最大野党)は、2010年からのGST導入を計画したものの、実現に向けた準備は進まなかった。2014年の総選挙でモディ政権が誕生すると、憲法改正を含むGST導入への動きが進展し、本年7月からの開始に至っている。
実際、GSTは政策当局にとり極めて困難な課題であった。これまでインドでは、憲法の規定に基づき、製品に対する課税権(対製造業者、小売業者)は中央政府及び州政府に、サービスに対する課税権は中央政府のみに与えられていた。GSTを導入するためには、まず29の全ての州が製品への課税権を放棄する必要があった。
しかも、インド各州では、様々な国政レベル、地方レベルの政党が勢力を握っており、異なる利害を巡り対立していたことから、事態は一層複雑であった。こうした中で、モディ政権は、各州で次々と政治的コンセンサスを形成し、GST導入の実現にまでこぎつけたのである。
GSTがインド経済の潮流を変える
物品サービス税(GST)は、インド経済の構造変革に大きく寄与すると見られる。第一に、GSTはより多くのビジネスを公式な税体系に取り込み、インドの非公式経済の公式化を促すことが見込まれる。これは低水準にある税収の対国内総生産(GDP)比の向上にもつながるだろう。また、GST自体は税収中立を想定しおり、短期的には税収効果は見込み難いが、長期的には税法令の遵守レベルの改善にともない、大幅な税収増が期待できる。
第二に、GSTは、州境税を撤廃することで「単一市場」の創設を可能にする。これは州をまたぐビジネスを手掛けるインド企業に対し、物流面での大きな障害を取り除くことになる。
第三に、GST導入により、累積税が廃止され、サプライチェーンが効率化するため、国内の製造業は輸入品に対する競争力を強化できる。
GST はなお進化の過程
物品サービス税(GST)導入の主な目的は、複雑な税体系の簡素化によるビジネス環境の改善、ITを利用
した税法令遵守レベルの改善、税収中立の維持による財政均衡化とインフレ抑制にある。
しかしながら、現行のGSTは、なお理想的な内容とはなっていない。何段階にも分かれた税率、ガソリン、アルコール飲料、不動産など重要品目の対象からの適用除外、新たな税法令遵守規定の必要性、などいくつもの分野で妥協が見られ、結果的に当初見込まれていたGST導入の効果は制限されることになった。
当局は、GST導入により、租税関連の煩雑な手続きを簡素化することを試みたが、この点に関しても不十分であり、中央政府と州政府がともにGSTの法令遵守を監視することになった。
さらに、今後5年間にわたり州政府の税収不足を補うとの合意は、税率の引き下げを制限する結果をもたらしている。税法令遵守についても、各州の課税権を失うことへの懸念や税当局と納税者との間の不信感などが原因で、当初想定された簡素化は実現していない。但し、今後、GSTの恩恵がより理解されるようになれば、将来的に改善の余地が広がるだろう。
短期的には混乱するも、半年後には正常化
7月1日に物品サービス税(GST)が導入されたが、短期的には、一部で混乱が生じる可能性がある。組織化
が進んだ大企業は新たな税体系への対応準備ができているが、組織化が遅れた中小企業は、在庫調整や新税率適用などを含め、対応がより難しいと見られる。また、短期的には、最終消費者に直接販売を行う企業は混乱に直面する可能性が高いが、企業向け販売(B2B)は問題が少ないだろう。
新たな税体系、税法令遵守への移行期は困難を伴うだろうが、半年後には、状況は正常化していると当社は見ている。
GSTは、公式経済への移行度合が増すごとに、中長期的にGDP成長率を押し上げることが見込まれる。また、GSTは、短期的にはインフレに与える影響は軽微ながら、長期的には物流コストの低減などからインフレ率を押し下げる効果が表れよう。
結論として、GSTはインド経済の潮流を変えるほどの大改革であり、短期的には混乱が生じるものの、その真のプラス効果が、今後2~3年の間にインド経済、産業、市場に表れてくることが期待できる。
当社の投資戦略
GST導入後も当社では投資戦略を基本的に変更しない。引き続き収益性とバリュエーションの両面で妙味がある銘柄に焦点を当てた投資を行う方針。
但し、一般消費財セクターは、GST導入により、累積税の廃止、サプライチェーンの効率化(州境の納税手続き撤廃など)、物流コストの低減などの恩恵を直接受けることから、特に注目している。
また、金融及び不動産セクターは、GST導入に伴う、非公式経済から公式経済への比重のシフトから間接的に恩恵を受けることが見込まれる。
【編集 : AG】