2019年11月8日、HSBC投信は経済レポートで、インド株式市場は国営企業の民営化に注目していると伝えた。
(レポート)トピックス・「市場は国営企業の民営化に注目」
国営企業の民営化の推進と「企業統治の強化および政府介入の縮小」という歴代政権が掲げた公約は、インドが過去数十年にわたって進めてきた改革を特徴づけてきた。しかし、国営企業の政府保有株比率引き下げや全株式売却は、様々な問題に直面し、多くのケースで実現に至っていない。このため、歴代政権による、この選挙公約は未達が常態化してきた。
インド政府は、今年度(2019年4月-2020年3月)予算で、財政赤字の対国内総生産(GDP)比率を3.3%に抑える目標を設定した。しかしながら、当初5ヶ月間の税収実績と最近実施された減税は、大幅な税収不足に陥る可能性を示唆している。このため、大規模な歳出削減を回避したい現政権にとって、国営企業の民営化は一段と重要性を増している。
明るい材料としては、第1期モディ政権(2014年5月-2019年5月)下において、国営企業の民営化は400億ドル(約4.4兆円)と記録的規模に達したことが挙げられる。これは、国民会議派(現在は最大野党)が率いた前政権下の5年間の民営化収入140億ドル(約1.5兆円)の3倍近くになる。
本年5月に2期目を迎えたモディ政権は、より大きな目標を掲げている。7月に発表された政府予算では今年度の民営化目標は1.05兆ルピー(約1.6兆円)となっている。
「民営化圧力」
民営化に取り組む現政権は9月、インドにおいて2000年代前半以来最大規模となる民営化計画を打ち出した。対象は国営企業4社である。
国営企業の政府保有株をすべて売却すると、中央政府は総額で約10兆ルピー(約15.5兆円)の民営化収入を得ることになる(国営企業の時価総額と政府保有比率をベースに試算)。この額は、国内外企業向けの戦略的売却、あるいは機関投資家や個人投資家向けに数回に分けて実施する段階的売却のいずれかが行われる場合、大幅に増える可能性がある。
多くの国営企業の株価評価は、政府保有企業の非効率な経営への懸念、政府保有株比率削減のための煩雑なプロセスへの市場の懸念を反映して、低くなっている。
対照的に、国営石油会社の場合、戦略的民営化の可能性がメディアで大きく報じられると株価が上昇に転じた。これは投資家が戦略的民営化を評価している証しと言える。
10月上旬には、鉄道チケット販売・売店・食堂サービスを提供する国営企業が新規株式公開(IPO)で9,090万米ドル(約99億円)相当の資金を調達したが、その応募倍率はインドの国営企業IPO史上で最も高い112倍であった。このIPOは、インド経済の減速と消費需要の落ち込みを懸念する声が高まる中でも投資家の関心が極めて高かったという点で特筆に値する。
一方、政府は民営化の代替案も用意しているが、投資家の評価はそれほど高くない。代替案は、政府が保有する国営企業の株式をETF(上場投資信託)を通じて売却する、国営企業同士が政府保有分を取得して株式を持ち合う、というものだ。今年度に予定している国営企業の民営化が計画どおりに達成できない場合、政府はETFを通じた株式売却または国営企業間の株式持ち合いに踏み切って、当初目標を強引に達成する動きに出ることを市場は懸念している。
「山積する圧力」
国営企業の民営化の決定とその実行には、政治的障害から労働組合や他の利害関係者との長期におよぶ交渉まで、様々な複雑な問題が立ちはだかる。その他にも、複雑な事業形態の正確な把握、政府による経営への介入の懸念、第三者による訴訟の可能性など、買い手の意欲を削ぐ要因は多い。
さらに、赤字体質の国営企業の場合は、買い手を見出すのは特に困難となる。例えば政府は、2018年に国営航空会社の株式売却を目指したものの買い手がつかず、民営化計画は頓挫した。同社はインドの代表的な航空会社だが、巨額の負債を抱え、2012年以降、税金を注ぎ込んだ再建計画のおかげで運行を続けている。モディ政権は同社の民営化を再度試みると言われている。
国営航空会社の民営化が頓挫したことを受けて、政府は同社の負債を管理可能な水準まで減少させることに着手するとともに、労組との複雑な交渉を開始している。すべては、買い手から見て、より魅力的な航空会社にするためだ。
国営航空会社の株式売却は、モディ政権にとって依然として極めて困難な課題だが、政府の最近の取り組みから判断すると、この民営化計画の目玉となる案件を何としても実現させたい現政権の決意がうかがえる。
【編集 : UH】
(レポート)トピックス・「市場は国営企業の民営化に注目」
国営企業の民営化の推進と「企業統治の強化および政府介入の縮小」という歴代政権が掲げた公約は、インドが過去数十年にわたって進めてきた改革を特徴づけてきた。しかし、国営企業の政府保有株比率引き下げや全株式売却は、様々な問題に直面し、多くのケースで実現に至っていない。このため、歴代政権による、この選挙公約は未達が常態化してきた。
インド政府は、今年度(2019年4月-2020年3月)予算で、財政赤字の対国内総生産(GDP)比率を3.3%に抑える目標を設定した。しかしながら、当初5ヶ月間の税収実績と最近実施された減税は、大幅な税収不足に陥る可能性を示唆している。このため、大規模な歳出削減を回避したい現政権にとって、国営企業の民営化は一段と重要性を増している。
明るい材料としては、第1期モディ政権(2014年5月-2019年5月)下において、国営企業の民営化は400億ドル(約4.4兆円)と記録的規模に達したことが挙げられる。これは、国民会議派(現在は最大野党)が率いた前政権下の5年間の民営化収入140億ドル(約1.5兆円)の3倍近くになる。
本年5月に2期目を迎えたモディ政権は、より大きな目標を掲げている。7月に発表された政府予算では今年度の民営化目標は1.05兆ルピー(約1.6兆円)となっている。
「民営化圧力」
民営化に取り組む現政権は9月、インドにおいて2000年代前半以来最大規模となる民営化計画を打ち出した。対象は国営企業4社である。
国営企業の政府保有株をすべて売却すると、中央政府は総額で約10兆ルピー(約15.5兆円)の民営化収入を得ることになる(国営企業の時価総額と政府保有比率をベースに試算)。この額は、国内外企業向けの戦略的売却、あるいは機関投資家や個人投資家向けに数回に分けて実施する段階的売却のいずれかが行われる場合、大幅に増える可能性がある。
多くの国営企業の株価評価は、政府保有企業の非効率な経営への懸念、政府保有株比率削減のための煩雑なプロセスへの市場の懸念を反映して、低くなっている。
対照的に、国営石油会社の場合、戦略的民営化の可能性がメディアで大きく報じられると株価が上昇に転じた。これは投資家が戦略的民営化を評価している証しと言える。
10月上旬には、鉄道チケット販売・売店・食堂サービスを提供する国営企業が新規株式公開(IPO)で9,090万米ドル(約99億円)相当の資金を調達したが、その応募倍率はインドの国営企業IPO史上で最も高い112倍であった。このIPOは、インド経済の減速と消費需要の落ち込みを懸念する声が高まる中でも投資家の関心が極めて高かったという点で特筆に値する。
一方、政府は民営化の代替案も用意しているが、投資家の評価はそれほど高くない。代替案は、政府が保有する国営企業の株式をETF(上場投資信託)を通じて売却する、国営企業同士が政府保有分を取得して株式を持ち合う、というものだ。今年度に予定している国営企業の民営化が計画どおりに達成できない場合、政府はETFを通じた株式売却または国営企業間の株式持ち合いに踏み切って、当初目標を強引に達成する動きに出ることを市場は懸念している。
「山積する圧力」
国営企業の民営化の決定とその実行には、政治的障害から労働組合や他の利害関係者との長期におよぶ交渉まで、様々な複雑な問題が立ちはだかる。その他にも、複雑な事業形態の正確な把握、政府による経営への介入の懸念、第三者による訴訟の可能性など、買い手の意欲を削ぐ要因は多い。
さらに、赤字体質の国営企業の場合は、買い手を見出すのは特に困難となる。例えば政府は、2018年に国営航空会社の株式売却を目指したものの買い手がつかず、民営化計画は頓挫した。同社はインドの代表的な航空会社だが、巨額の負債を抱え、2012年以降、税金を注ぎ込んだ再建計画のおかげで運行を続けている。モディ政権は同社の民営化を再度試みると言われている。
国営航空会社の民営化が頓挫したことを受けて、政府は同社の負債を管理可能な水準まで減少させることに着手するとともに、労組との複雑な交渉を開始している。すべては、買い手から見て、より魅力的な航空会社にするためだ。
国営航空会社の株式売却は、モディ政権にとって依然として極めて困難な課題だが、政府の最近の取り組みから判断すると、この民営化計画の目玉となる案件を何としても実現させたい現政権の決意がうかがえる。
【編集 : UH】