2020年5月22日、HSBC投信は「全土封鎖で新型コロナ感染拡大防止に取り組むインド(2)」と題するれ―ポートを公表した。
<HSBC投信レポート>トピックス
全土封鎖の延長で高まる不安
インドでは、世界の主要国の中で最も厳しいロックダウン(都市封鎖)が実施されてきたが、新型コロナウイルス感染症は4月から5月にかけて、ほぼ全土に拡大した。国内の感染者数は4月半ばの約1万2000人から5月半ばには8万人超にまで急増した。その中で前向きな話としては、感染の有無を調べる検査数が増えたこと(世界で最も少ない国の1つであることには変わらない)、そして感染経路の追跡調査の体制が強化されつつあることが挙げられる。感染者の回復率も5月半には30%を超える水準まで著しく改善した。しかし、政府は厳しい政策の舵取りを余儀なくされており、感染拡大が止まらないためロックダウンの延長を続ける一方、その解除後は経済活動の本格的な再開を段階的に進める方針と伝えられている。
3月25日から実施されている全国を対象とするロックダウンは現在、3回目の延長期間(5月18日~31日)に入っているが、その後も数週間、何らかの形でさらに延長される可能性がある。ただし、政府は、ロックダウンの一部について、経済的打撃と、社会的弱者が属する「インフォーマル・セクター」への大きな影響を考慮して、4月20日以降は条件付きで徐々に緩和している。感染の拡散状況は地域別に感染率に応じて赤、黄、緑に色分けされ、生活必需品などを扱う店舗の営業など一部の経済活動は認められてきた。5月12日には国鉄の一般旅客輸送の一部再開が認められた。開始直後は国内経済の70%近くに影響を与えたロックダウンだが、段階的な緩和によって5月現在その割合は40%に減っている。
インドのロックダウンが完全に解除される時期がいつ頃になるかを予測することは難しい。経済活動の再開に踏み切った他の国々の状況が示しているように、政府にとって、経済を再活性化させることは非常に困難な課題であることは明らかだ。
最近数週間にインド及び他の国々で起きたことをベースに「経済回復シナリオ」を想定してみよう。それには、感染拡大の影響の大小に注目する必要がある。影響が小さい地域・分野が経済活動の本格的な再開とそれによる景気回復の実現で先行するというシナリオが考えられるからだ。インドの場合、その役割を担うのは、農村部、供給サイド、製造業、消費ということになる。農村部が都市部ほど打撃を受けていないのは明らかだ。失業者が増え続ければ需要の低迷は必至で、需要よりも供給サイドの回復が先行する可能性が高い。同様に、製造業がサービス業より先に回復基調に戻ることが予想される。また、消費と投資を比べると、経済の先行き不透明感や家計収入の減少に直面しても生活必需品などの消費を減らすことは難しいため、消費の水準が投資ほど大きく落ち込むことはないと思われる。
直近数週間の経済活動の冷え込みと新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンの延長を考慮して、エコノミストは相次いでインドの国内総生産(GDP)成長率見通しを大幅に下方修正している。感染拡大防止策の一部が6月末まで維持される可能性がある中で、4-6月期の経済成長率の大幅な低下に加えて、その後遺症が7-9月期も続くことが予想される。供給サイドに比べると、需要ショックからの反転には時間がかかるため、成長がプラスに転じるのは2020年末近くまで待たねばならないことも考えられる。
政府は5月12日、総額20兆ルピー(約29兆円)の経済対策を発表した。財政・金融措置を含む景気刺激策パッケージの規模はインドの名目GDPの約10%に相当する。同パッケージの一部は市場からの借り入れでまかなわれる予定で、政府が2020年度(2020年4月-2021年3月)の借り入れ目標を当初の7.8兆ルピーから12兆ルピーに引き上げた。
投資家は当初、経済対策に前向きな反応を見せたが、その後、パッケージの3分の1以上は2020年に入ってからこれまでに公表された金融措置だとわかると、歓迎ムードは消えてしまった(図表1参照)。
経済対策には、マイクロ企業家、中小企業、それらに融資を行うノンバンク金融事業会社(NBCF)を対象に設定された総額620億ドル相当の信用与信枠、電力の配電(小売)業者向けの100億ドル相当の融資枠がそれぞれ含まれている。政府は、インド経済の根幹をなす中小企業、「シャドーバンク(影の銀行)」、不動産会社など、新型コロナウイルスで打撃を被った部門への支援に力を入れる姿勢を鮮明にしている。
経済対策発表の2週間前に格付会社フィッチ・レーティングスは、インドの財政が一段と悪化した場合、格付けを引き下げる可能性があると警告していた。インドでは、景気はパンデミック(世界的大流行)発生前から減速しており、財政も低税徴収率による歳入不足が続く中で歳出が増えたことから悪化し続けていた。
最新の経済対策は供給サイドを支援する措置で構成されているが、ロックダウン解除後には政府が需要サイドの支援策を発表するという期待が国内では見られる。
【編集 : UZ】
<HSBC投信レポート>トピックス
全土封鎖の延長で高まる不安
インドでは、世界の主要国の中で最も厳しいロックダウン(都市封鎖)が実施されてきたが、新型コロナウイルス感染症は4月から5月にかけて、ほぼ全土に拡大した。国内の感染者数は4月半ばの約1万2000人から5月半ばには8万人超にまで急増した。その中で前向きな話としては、感染の有無を調べる検査数が増えたこと(世界で最も少ない国の1つであることには変わらない)、そして感染経路の追跡調査の体制が強化されつつあることが挙げられる。感染者の回復率も5月半には30%を超える水準まで著しく改善した。しかし、政府は厳しい政策の舵取りを余儀なくされており、感染拡大が止まらないためロックダウンの延長を続ける一方、その解除後は経済活動の本格的な再開を段階的に進める方針と伝えられている。
3月25日から実施されている全国を対象とするロックダウンは現在、3回目の延長期間(5月18日~31日)に入っているが、その後も数週間、何らかの形でさらに延長される可能性がある。ただし、政府は、ロックダウンの一部について、経済的打撃と、社会的弱者が属する「インフォーマル・セクター」への大きな影響を考慮して、4月20日以降は条件付きで徐々に緩和している。感染の拡散状況は地域別に感染率に応じて赤、黄、緑に色分けされ、生活必需品などを扱う店舗の営業など一部の経済活動は認められてきた。5月12日には国鉄の一般旅客輸送の一部再開が認められた。開始直後は国内経済の70%近くに影響を与えたロックダウンだが、段階的な緩和によって5月現在その割合は40%に減っている。
インドのロックダウンが完全に解除される時期がいつ頃になるかを予測することは難しい。経済活動の再開に踏み切った他の国々の状況が示しているように、政府にとって、経済を再活性化させることは非常に困難な課題であることは明らかだ。
最近数週間にインド及び他の国々で起きたことをベースに「経済回復シナリオ」を想定してみよう。それには、感染拡大の影響の大小に注目する必要がある。影響が小さい地域・分野が経済活動の本格的な再開とそれによる景気回復の実現で先行するというシナリオが考えられるからだ。インドの場合、その役割を担うのは、農村部、供給サイド、製造業、消費ということになる。農村部が都市部ほど打撃を受けていないのは明らかだ。失業者が増え続ければ需要の低迷は必至で、需要よりも供給サイドの回復が先行する可能性が高い。同様に、製造業がサービス業より先に回復基調に戻ることが予想される。また、消費と投資を比べると、経済の先行き不透明感や家計収入の減少に直面しても生活必需品などの消費を減らすことは難しいため、消費の水準が投資ほど大きく落ち込むことはないと思われる。
直近数週間の経済活動の冷え込みと新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンの延長を考慮して、エコノミストは相次いでインドの国内総生産(GDP)成長率見通しを大幅に下方修正している。感染拡大防止策の一部が6月末まで維持される可能性がある中で、4-6月期の経済成長率の大幅な低下に加えて、その後遺症が7-9月期も続くことが予想される。供給サイドに比べると、需要ショックからの反転には時間がかかるため、成長がプラスに転じるのは2020年末近くまで待たねばならないことも考えられる。
政府は5月12日、総額20兆ルピー(約29兆円)の経済対策を発表した。財政・金融措置を含む景気刺激策パッケージの規模はインドの名目GDPの約10%に相当する。同パッケージの一部は市場からの借り入れでまかなわれる予定で、政府が2020年度(2020年4月-2021年3月)の借り入れ目標を当初の7.8兆ルピーから12兆ルピーに引き上げた。
投資家は当初、経済対策に前向きな反応を見せたが、その後、パッケージの3分の1以上は2020年に入ってからこれまでに公表された金融措置だとわかると、歓迎ムードは消えてしまった(図表1参照)。
経済対策には、マイクロ企業家、中小企業、それらに融資を行うノンバンク金融事業会社(NBCF)を対象に設定された総額620億ドル相当の信用与信枠、電力の配電(小売)業者向けの100億ドル相当の融資枠がそれぞれ含まれている。政府は、インド経済の根幹をなす中小企業、「シャドーバンク(影の銀行)」、不動産会社など、新型コロナウイルスで打撃を被った部門への支援に力を入れる姿勢を鮮明にしている。
経済対策発表の2週間前に格付会社フィッチ・レーティングスは、インドの財政が一段と悪化した場合、格付けを引き下げる可能性があると警告していた。インドでは、景気はパンデミック(世界的大流行)発生前から減速しており、財政も低税徴収率による歳入不足が続く中で歳出が増えたことから悪化し続けていた。
最新の経済対策は供給サイドを支援する措置で構成されているが、ロックダウン解除後には政府が需要サイドの支援策を発表するという期待が国内では見られる。
【編集 : UZ】