2021年1月5日、HSBC投信は今年の経済見通しをレポートで伝えた。
【HSBC投信・経済レポート】
新型コロナウイルスの感染が拡大し、その社会および経済への影響が世界的に波及している。中でも、インドは最も深刻な打撃を受けている国の一つと言える。しかしながら、最近では、感染者数に減少傾向が見られ、また新型コロナワクチンへの楽観的見方が広がる中で、2021年のインド経済は、未曽有の景気低迷から力強く回復するとの期待感が高まっている。インドの今後の成長軌道はスムーズではないと見られるものの、その経済活動はポストコロナのニューノーマル(新常態)に対応するものへと移行していくだろう。
政府は2020年3月にロックダウン(全土封鎖)に踏み切ったものの新型コロナウイルスの感染拡大を防げなかった。コロナ禍による経済への打撃は、感染が2019年の緩慢な成長から抜け出せない中で発生したこと、また山積みする構造問題が重なったことなどから、増幅された。しかしながら、極めて厳しい時期が約6ヶ月続いた後に経済活動は改善に転じ、その傾向は2020年10-12月期も継続している。ただし、回復は不均衡な状態が続いており、鉱工業生産と財の消費が立ち直りを続ける一方、サービスの消費と投資は依然として低調である。一方、国内需要動向を反映する物品・サービス税(GST)による税収、輸入(石油・金を除く)は回復が続いている。また、コロナ禍でソーシャル・ディスタンスが習慣化したことから、デジタル決済・モバイル決済を選ぶ人の数が増えてきた。
2021年の見通し: ワクチンへの期待、不均衡な回復
当社は、インド経済が2021年には、主としてベース効果によって、大きく回復すると予想している。ただし、ロックダウンの解除直後に見られた経済活動の急激な持ち直し、その後の経済の本格的な再開、ロックダウン中に生じた繰り延べ需要の顕在化を考慮すると、今後の連続的な成長モメンタムはより穏やかなものとなると見ている。2021年上半期については、ワクチン接種が始まるとしても当初は限定的な規模にとどまることや、感染の再拡大の恐れや感染への懸念の継続によって、成長軌道に時折乱れが生じることが考えられる。しかし、インド経済の回復は、2020年に打ち出された緩和的な金融政策の遅行効果、世界的な景気回復(インドの輸出にプラス)、ワクチンの配布開始によって一定程度下支えされ続ける公算が高い。
個人消費は、緊急景気対策の縮小や新型コロナウイルスの様々なセクターへの影響はあっても、経済成長の主たるけん引役となる可能性が高い。その理由としては、雇用と家計収入の改善が見込まれること、消費者信頼感の向上、ロックダウン中に積み上がった貯蓄などが挙げられる。新型コロナワクチンの供給ペースが、インド経済、中でも対面サービスを基本とする旅行、観光、ホスピタリティなどの各セクターの回復速度の決め手となるだろう。景気回復は、ワクチンへの期待が、集団免疫の完全な形成を待たずに、消費者および企業の信頼度の改善や消費及び投資の積極化につながるかにかかっているとも言える。
インドは世界有数のワクチン生産国で、開発途上国向けワクチンも生産することになっている。ただし、重要なのは、必要な量の確保よりも効果的な接種である。ワクチンの効果的な接種が実施されれば、企業の景況感が向上し、その結果として企業収益と需要の改善が現実となり、最終的にはこれまで繰り越されてきた投資の活性化を促すことが予想される。
インド準備銀行(中央銀行)は最近、2020年度(2020年4月~2021年3月)の実質経済成長見通しを10月に発表した-9.5%から-7.5%に引き上げた。発表では、経済回復が不均衡に進んでいることが取り上げられた。新型コロナウイルスの感染が発生し、3月にロックダウンが導入されて以来、中央銀行は政策金利を合計で115ベーシスポイント(bp)引き下げた。中央銀行は、2020年12月の政策会合で、政策金利(レポレート)について、高水準で推移するインフレ圧力と景気回復の兆しを理由に、3会合連続で据え置きを決めた。中央銀行は同時に、緩和的な金融政策スタンスを維持し、必要があれば流動性の供給を拡大するためにさらなる措置を講じる用意があることも明示した。インフレ率の高止まりを背景に過剰流動性縮小の可能性が懸念される中で、中央銀行が流動性を拡大する用意があると発表したことは、市場にとりやや予想外であった。中央銀行の政策の行方については、成長率およびインフレ率の見通しと伝統的な政策を採用する余地がない現状を考慮すると、当社の基本シナリオが示すように、2021年を通して現在の金融政策を維持する可能性が高い。また、可能性としては低いが、2021年半ばまでか、または同年下半期に、金融政策を「中立的」に戻すかもしれない。
これまで見てきたように、効果的なワクチンが広範囲に提供される見通しを背景に、新型コロナウイルスの脅威が後退し、循環的な成長への期待が高まっているが、コロナ禍による経済的不均衡と需給ギャップという後遺症は長期化する可能性が高い。
【編集 : LK】
【HSBC投信・経済レポート】
新型コロナウイルスの感染が拡大し、その社会および経済への影響が世界的に波及している。中でも、インドは最も深刻な打撃を受けている国の一つと言える。しかしながら、最近では、感染者数に減少傾向が見られ、また新型コロナワクチンへの楽観的見方が広がる中で、2021年のインド経済は、未曽有の景気低迷から力強く回復するとの期待感が高まっている。インドの今後の成長軌道はスムーズではないと見られるものの、その経済活動はポストコロナのニューノーマル(新常態)に対応するものへと移行していくだろう。
政府は2020年3月にロックダウン(全土封鎖)に踏み切ったものの新型コロナウイルスの感染拡大を防げなかった。コロナ禍による経済への打撃は、感染が2019年の緩慢な成長から抜け出せない中で発生したこと、また山積みする構造問題が重なったことなどから、増幅された。しかしながら、極めて厳しい時期が約6ヶ月続いた後に経済活動は改善に転じ、その傾向は2020年10-12月期も継続している。ただし、回復は不均衡な状態が続いており、鉱工業生産と財の消費が立ち直りを続ける一方、サービスの消費と投資は依然として低調である。一方、国内需要動向を反映する物品・サービス税(GST)による税収、輸入(石油・金を除く)は回復が続いている。また、コロナ禍でソーシャル・ディスタンスが習慣化したことから、デジタル決済・モバイル決済を選ぶ人の数が増えてきた。
2021年の見通し: ワクチンへの期待、不均衡な回復
当社は、インド経済が2021年には、主としてベース効果によって、大きく回復すると予想している。ただし、ロックダウンの解除直後に見られた経済活動の急激な持ち直し、その後の経済の本格的な再開、ロックダウン中に生じた繰り延べ需要の顕在化を考慮すると、今後の連続的な成長モメンタムはより穏やかなものとなると見ている。2021年上半期については、ワクチン接種が始まるとしても当初は限定的な規模にとどまることや、感染の再拡大の恐れや感染への懸念の継続によって、成長軌道に時折乱れが生じることが考えられる。しかし、インド経済の回復は、2020年に打ち出された緩和的な金融政策の遅行効果、世界的な景気回復(インドの輸出にプラス)、ワクチンの配布開始によって一定程度下支えされ続ける公算が高い。
個人消費は、緊急景気対策の縮小や新型コロナウイルスの様々なセクターへの影響はあっても、経済成長の主たるけん引役となる可能性が高い。その理由としては、雇用と家計収入の改善が見込まれること、消費者信頼感の向上、ロックダウン中に積み上がった貯蓄などが挙げられる。新型コロナワクチンの供給ペースが、インド経済、中でも対面サービスを基本とする旅行、観光、ホスピタリティなどの各セクターの回復速度の決め手となるだろう。景気回復は、ワクチンへの期待が、集団免疫の完全な形成を待たずに、消費者および企業の信頼度の改善や消費及び投資の積極化につながるかにかかっているとも言える。
インドは世界有数のワクチン生産国で、開発途上国向けワクチンも生産することになっている。ただし、重要なのは、必要な量の確保よりも効果的な接種である。ワクチンの効果的な接種が実施されれば、企業の景況感が向上し、その結果として企業収益と需要の改善が現実となり、最終的にはこれまで繰り越されてきた投資の活性化を促すことが予想される。
インド準備銀行(中央銀行)は最近、2020年度(2020年4月~2021年3月)の実質経済成長見通しを10月に発表した-9.5%から-7.5%に引き上げた。発表では、経済回復が不均衡に進んでいることが取り上げられた。新型コロナウイルスの感染が発生し、3月にロックダウンが導入されて以来、中央銀行は政策金利を合計で115ベーシスポイント(bp)引き下げた。中央銀行は、2020年12月の政策会合で、政策金利(レポレート)について、高水準で推移するインフレ圧力と景気回復の兆しを理由に、3会合連続で据え置きを決めた。中央銀行は同時に、緩和的な金融政策スタンスを維持し、必要があれば流動性の供給を拡大するためにさらなる措置を講じる用意があることも明示した。インフレ率の高止まりを背景に過剰流動性縮小の可能性が懸念される中で、中央銀行が流動性を拡大する用意があると発表したことは、市場にとりやや予想外であった。中央銀行の政策の行方については、成長率およびインフレ率の見通しと伝統的な政策を採用する余地がない現状を考慮すると、当社の基本シナリオが示すように、2021年を通して現在の金融政策を維持する可能性が高い。また、可能性としては低いが、2021年半ばまでか、または同年下半期に、金融政策を「中立的」に戻すかもしれない。
これまで見てきたように、効果的なワクチンが広範囲に提供される見通しを背景に、新型コロナウイルスの脅威が後退し、循環的な成長への期待が高まっているが、コロナ禍による経済的不均衡と需給ギャップという後遺症は長期化する可能性が高い。
【編集 : LK】