2022年7月8日、HSBCアセットマネジメントは、インドのインフレ対応についてのレポートを伝えた。
― インドのインフレ率は、足元、インド準備銀行(RBI)による目標範囲の上限6%を5ヶ月連続で突破
― RBIは5月の臨時の金融政策決定会合にて政策金利の40ベーシスポイント(bp)の引き上げを決定。6月の定例の金融政策決定会合ではさらに50bpの引き上げを発表
― インフレ率上昇の最大要因は、消費者物価指数にて最大(54%)の割合を占める食料品価格の上昇にある
― RBIは現在、急激なインフレの脅威を回避するため、長期のインフレ期待安定化政策に重点を置いており、残り年内に複数回の追加利上げが予想されている
本年4月に発行したHSBCアセットマネジメントのレポート「インド金融政策の枠組み」にて、RBIによる金融政策の枠組みについて概観した。同時に、4月の金融政策決定会合後に発表された声明文に関して、過去の会合のものとは微妙に変化した点、つまり従来の経済成長重視からインフレ抑制にRBIのスタンスが移行したことを取り上げた。また同月号では、インフレ率の上昇が続けば、RBIは近い将来、金利引き上げに追い込まれる可能性があると述べた。実際、RBIは政策金利を5月に開催した臨時の金融政策決定会合にて40bp、6月の定例の金融政策決定会合にて50bp、各々引き上げた。今回は最近のRBIの動きの理論的根拠に迫る。
インフレの高止まり
「インド金融政策の枠組み」で既述の通り、RBIはインフレ目標型の金融政策として、2%~6%のインフレ目標範囲を導入している。
この観点から言えば、インドのインフレ率(前年同月比)は2022年1月以降一貫して6%超えとなっているため、RBIは5ヶ月連続でインフレ目標達成に失敗したことになる。
インフレが高止まりしている背景には、同時進行中の複数の世界的な問題がある。とりわけ、ウクライナ情勢はコモディティと食料品の価格を押し上げ、また中国における新型コロナウイルスの感染拡大に伴う都市封鎖はサプライチェーンの混乱に拍車をかけている。
こうしたなか、RBIは金融政策に対する信認を得るため、インフレ抑制に向けて政策金利を適正水準に設定することを決定した。
利上げ
RBIは金融政策決定会合を2ヶ月ごとに定期開催し、政策金利を変更すべきか否かを決定する。そのため、定例会合は4月の次は6月に予定されていた。しかし、急激なインフレ率の上昇を受けて、5月に臨時の会合が開催され、政策金利であるレポレートの40bp引き上げが決定された。
この予想外の利上げは、RBIによるインフレ目標堅持の姿勢を市場に伝えることとなった。6月の定例会合ではレポレートはさらに50bp引き上げられ、RBIのインフレ抑制への決意が改めて示された。同時に、RBIは経済成長にも配慮している姿勢を示し、市場を安心させた。
具体的には、6月の定例会合後の声明文にて、足元の相次ぐ利上げにもかかわらず、レポレートはコロナ禍前の水準を依然下回っていると強調している。言うまでもなく、中央銀行にはインフレ抑制と経済成長支援の間で微妙なバランスを取るという、難題が課せられている。
主要項目別に見たインフレ傾向
足元数ヶ月のインドのインフレ傾向を見ると、CPI構成比率が最大(54%)の食料品価格の上昇がインフレ全体を押し上げる大きな要因となっていることがわかる。食料品価格の上昇圧力が高まり始めたのは、2021年終盤に新型コロナウイルスのオミクロン株感染が世界的に拡大し始めた時期と重なる。
その後、ウクライナ情勢が緊迫化すると食料品価格は一段と高騰した。衣服と燃料の価格も急上昇(その傾向は過去1年の多くを通じて見られた)しているが、両項目を合計したCPI構成比率は約15%に過ぎない。
一方、サプライチェーン・ショックが幅広なインフレ要因である状況に変わりはない。RBIでは、投入価格の上昇に伴い、製造・サービスの両セクターにおける消費者物価への価格転嫁の動きが、より強まる兆しが高まっていることにも注視している。
見通し
RBIでは、インドのインフレ率が2022年後半を通して目標範囲の上限6%を上回る水準で推移すると予想している。その背景には、サプライチェーン問題の長期化と中国のゼロコロナ対策がある。
コモディティやエネルギーの価格高騰とサプライチェーンのボトルネックの長期化を受けて、RBIが高インフレの持続を見込んでいるのは確かである。しかし、本年のモンスーン(雨季)が平年並みになるという予報、ガソリンとディーゼル燃料の物品税の引き下げ、金属価格の落ち着きといった最近一部で見られるポジティブな事象や財政面での政策支援を背景に、インフレ上昇圧力はある程度緩和される可能性がある。
RBIは現在、急激なインフレが経済成長と金融安定にもたらす脅威を回避するために必要な長期のインフレ期待安定化政策の推進に重点を置いている。
このため、RBIは、複数年の時間枠の中で、コロナ禍対策として導入した追加的緩和策を整然かつ段階的に解除する予定である。足元実施した2回の利上げにより、レポレートは4.0%から4.9%に引き上げられたが、それでもコロナ禍直前の水準(5.15%)を依然として若干下回っている。インフレ抑制のために、今後開催される複数回の金融政策決定会合にて政策金利のさらなる引き上げが予想される。
【編集 : af】
― インドのインフレ率は、足元、インド準備銀行(RBI)による目標範囲の上限6%を5ヶ月連続で突破
― RBIは5月の臨時の金融政策決定会合にて政策金利の40ベーシスポイント(bp)の引き上げを決定。6月の定例の金融政策決定会合ではさらに50bpの引き上げを発表
― インフレ率上昇の最大要因は、消費者物価指数にて最大(54%)の割合を占める食料品価格の上昇にある
― RBIは現在、急激なインフレの脅威を回避するため、長期のインフレ期待安定化政策に重点を置いており、残り年内に複数回の追加利上げが予想されている
本年4月に発行したHSBCアセットマネジメントのレポート「インド金融政策の枠組み」にて、RBIによる金融政策の枠組みについて概観した。同時に、4月の金融政策決定会合後に発表された声明文に関して、過去の会合のものとは微妙に変化した点、つまり従来の経済成長重視からインフレ抑制にRBIのスタンスが移行したことを取り上げた。また同月号では、インフレ率の上昇が続けば、RBIは近い将来、金利引き上げに追い込まれる可能性があると述べた。実際、RBIは政策金利を5月に開催した臨時の金融政策決定会合にて40bp、6月の定例の金融政策決定会合にて50bp、各々引き上げた。今回は最近のRBIの動きの理論的根拠に迫る。
インフレの高止まり
「インド金融政策の枠組み」で既述の通り、RBIはインフレ目標型の金融政策として、2%~6%のインフレ目標範囲を導入している。
この観点から言えば、インドのインフレ率(前年同月比)は2022年1月以降一貫して6%超えとなっているため、RBIは5ヶ月連続でインフレ目標達成に失敗したことになる。
インフレが高止まりしている背景には、同時進行中の複数の世界的な問題がある。とりわけ、ウクライナ情勢はコモディティと食料品の価格を押し上げ、また中国における新型コロナウイルスの感染拡大に伴う都市封鎖はサプライチェーンの混乱に拍車をかけている。
こうしたなか、RBIは金融政策に対する信認を得るため、インフレ抑制に向けて政策金利を適正水準に設定することを決定した。
利上げ
RBIは金融政策決定会合を2ヶ月ごとに定期開催し、政策金利を変更すべきか否かを決定する。そのため、定例会合は4月の次は6月に予定されていた。しかし、急激なインフレ率の上昇を受けて、5月に臨時の会合が開催され、政策金利であるレポレートの40bp引き上げが決定された。
この予想外の利上げは、RBIによるインフレ目標堅持の姿勢を市場に伝えることとなった。6月の定例会合ではレポレートはさらに50bp引き上げられ、RBIのインフレ抑制への決意が改めて示された。同時に、RBIは経済成長にも配慮している姿勢を示し、市場を安心させた。
具体的には、6月の定例会合後の声明文にて、足元の相次ぐ利上げにもかかわらず、レポレートはコロナ禍前の水準を依然下回っていると強調している。言うまでもなく、中央銀行にはインフレ抑制と経済成長支援の間で微妙なバランスを取るという、難題が課せられている。
主要項目別に見たインフレ傾向
足元数ヶ月のインドのインフレ傾向を見ると、CPI構成比率が最大(54%)の食料品価格の上昇がインフレ全体を押し上げる大きな要因となっていることがわかる。食料品価格の上昇圧力が高まり始めたのは、2021年終盤に新型コロナウイルスのオミクロン株感染が世界的に拡大し始めた時期と重なる。
その後、ウクライナ情勢が緊迫化すると食料品価格は一段と高騰した。衣服と燃料の価格も急上昇(その傾向は過去1年の多くを通じて見られた)しているが、両項目を合計したCPI構成比率は約15%に過ぎない。
一方、サプライチェーン・ショックが幅広なインフレ要因である状況に変わりはない。RBIでは、投入価格の上昇に伴い、製造・サービスの両セクターにおける消費者物価への価格転嫁の動きが、より強まる兆しが高まっていることにも注視している。
見通し
RBIでは、インドのインフレ率が2022年後半を通して目標範囲の上限6%を上回る水準で推移すると予想している。その背景には、サプライチェーン問題の長期化と中国のゼロコロナ対策がある。
コモディティやエネルギーの価格高騰とサプライチェーンのボトルネックの長期化を受けて、RBIが高インフレの持続を見込んでいるのは確かである。しかし、本年のモンスーン(雨季)が平年並みになるという予報、ガソリンとディーゼル燃料の物品税の引き下げ、金属価格の落ち着きといった最近一部で見られるポジティブな事象や財政面での政策支援を背景に、インフレ上昇圧力はある程度緩和される可能性がある。
RBIは現在、急激なインフレが経済成長と金融安定にもたらす脅威を回避するために必要な長期のインフレ期待安定化政策の推進に重点を置いている。
このため、RBIは、複数年の時間枠の中で、コロナ禍対策として導入した追加的緩和策を整然かつ段階的に解除する予定である。足元実施した2回の利上げにより、レポレートは4.0%から4.9%に引き上げられたが、それでもコロナ禍直前の水準(5.15%)を依然として若干下回っている。インフレ抑制のために、今後開催される複数回の金融政策決定会合にて政策金利のさらなる引き上げが予想される。
【編集 : af】