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【フィリピン】マルコス大統領が注力する『飢餓ゼロプロジェクト』7月からスタート

Global News Asia 2023年6月30日 7時0分

 就任2年目に入っているフィリピンのマルコス大統領が、目玉プロジェクトとしてZero Hunger Project2027「飢餓ゼロプロジェクト2027」構想を発表している。かつてアセアンのお荷物とも言われた同国の問題である貧困撲滅に向けて大きく一歩を踏み出そうとしている。そこでは日本の主導でアジア各国の開発支援を行っているアジア開発銀行(ADB)のバックアップが大きな役割を担う。貧困問題は、フィリピンだけではなく世界各国共通の問題とも言える。その解決への糸口として大いに注目を集めているプロジェクトであり、2代目政治家としての手腕が問われることになるだろう。

 飢餓ゼロプロジェクトとは?
 
 アジア通貨危機や新型コロナを経た中でフィリピンは近年着実な発展を遂げている。20〜30年前では全国民の約9割もが貧困層だとされていたものが、8割へと減少し中間層も着実に増えてきた。しかし、まだまだ所得は一律に低く、島しょ部や地方の生活環境やインフラ、社会福祉も遅れている。この問題に対して大統領が打ち出したものが今回の飢餓ゼロプロジェクトだ。大まかには、一定以下の収入の世帯に最低限の生活保障をしようというものだ。日本の生活保護や近年話題のベーシックインカムにも近い制度ということになる。

 ADBは、その設立当初から歴代総裁を日本人が務めていて、日本との関係が非常に強い国際金融機関ではあるが、その本店はマニラにありフィリピンをはじめとしたアセアン諸国への支援が多い。今回のプロジェクトは、このADBによる資金的バックアップあればこそという面も大きく、強いて言えば、日本による貧困問題解決支援として大きな意義があるだろう。そして今後も同問題解決への多いなるサンプルケースとなり得る。

 具体的な施策として、7月から12月にかけて月収8000ペソ(約2万円)以下の家庭を対象に、月3000ペソ(約7600円)のフードスタンプを配布。まず3000世帯から試験的に運用をスタートする。そして、来年度から本格運用を開始して、段階的に拡充。2027年までには100万世帯を対象とするものだ。現金支給を避けたのは、当然食糧などの生活必需品以外への散財を忌避するものだが、デジタル式フードスタンプの採用で各家庭のニーズや状況の把握にも活用される。また、一方的にデータを収集するだけでなく、各家庭ごとに栄養を均等に過不足なく摂れるよう支給内容や活用方法もコンサルティングすることで、システムを双方向で活用する。

 このプロジェクトは、単なる一過性の人気取りのプロジェクトではなく、2020年から法案として国会でも審議されてきた。この法案は第10条で、政府は法施行から2年半以内に飢餓率を施行時と比較して25%、5年以内にさらに25%減少させ、10年以内に国内から飢餓を撲滅することを政府の義務としている。

 マルコス大統領は、1957年生まれ。本名フィルディナンド・ロムアルデス・マルコス。通称ボンボン・マルコス。1986年のエドゥサ革命により父親であるマルコス元大統領と共にアメリカに亡命。それまでは北イロコス州知事だった。1989年にハワイ島で暮らしていた同元大統領の死去に伴い、フィリピンに帰国を許される。1998年に民主選挙により北イロコス州知事に当選。2010年には上院議員に当選した。2016年の大統領選に副大統領候補として立候補したが落選。2022年5月の大統領選で、剛腕で知られたドゥテルテ前大統領の娘を副大統領に従えて当選した。二代目政治家として2年目に入った大統領の手腕が本格的に試される。

 今回のプロジェクトは、理想を掲げ、その実現のために行動するという政治家として極基本的な理念に基づいたものだが、選挙の時だけ甘言やばら撒きで延命しては自己の利権ばかりを追求する現代政治屋がはびこる世界で、希少な存在ともなっている。また、かつてのエドゥサ革命後には、世界的にもトップクラスにまで開かれたマスコミの力もあり、同国の民主主義は大きく飛躍している。本当なら日本にこそ現れて欲しい政治家ではなかろうか。また、貧困の撲滅や生存の保障は、国として最低限の提供義務と考えられる。そのため打ち立てられ、全国民を平等に保障しようとした社会主義国家は、その理想を叶えることなく失敗している。しかし、国としてやるべき方向としては、決して間違ったものではない。このプロジェクトは、現代世界で国として弱者救済をどう解決するのかを探る貴重な機会となるだろう。

 次回以降、フィリピンの貧困問題について過去に著者自身が訪れた体験などとともに書いてみたい。
【執筆 : そむちゃい吉田】

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