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まちの本屋さんをなくさないために…店主のこだわりが詰まった店構え「書店ならではの手触りと偶然の出会い」「一冊一冊を大事に」新たなビジネスモデルを模索

北海道放送 2024年7月29日 20時49分

皆さんは、家の近くに「行きつけの書店はあるでしょうか。
新しい本との出会いがある「書店」の数が今、全国で減り続けています。
そんな中、北海道内で「生活の中に本屋さんがある風景」を守ろうとする人たちを取材しました。

国道沿いにある北海道留萌市のショッピングセンターです。マチで、ただ1軒の書店があります。

開店は午前10時。待ちかねた子どもたちが、やってきました。

5歳、2歳、0歳のママ、お目当ては、こどもの絵本です。

3児のママ
「まだ欲しいのがあったので探してもらってます」

店員
「ピッピッ。合計1万3255円になります」

今拓己(こん・たくみ)店長(75)です。書棚には、今さんのこだわりが詰まっていました。

留萌ブックセンター 今店長
「課題図書と自由研究の本、夏休み用に。子どもの本が一番神経使う」

10分ほど棚とにらめっこしているのは、高校3年生。
受験生のかき入れ時=夏休みを前に、参考書選びに余念がありません。

高校3年生(18)
「勉強方法の関係で合う合わないあるので、実際目で見て」

物理、化学の参考書と一緒に買ったのは、発売になったばかりの小説「記憶アパートの坂下さん」。

へぇー、本が好きなんだね。

留萌ブックセンターが開店したのは、2011年7月。

「いらっしゃいませー」

前の年、留萌市内で唯一の書店の倒産をきっかけに市民グループがたちあがり、出店基準が人口30万人だった三省堂書店を、当時、2万5000人の留萌市に誘致する、異例の出店を実現したのです。

今、北海道内の約4割の市町村には、書店がありません。

背景には、ネット通販の広がりや電子書籍の普及、雑誌の落ち込みなどがあります。

今さんは、そんな時代だからこそ、書店ならではの手触りと偶然の本との出会いに、こだわっています。

今拓己店長
「(欲しい本と)関連性があるのが(本棚の)横にも上にも下にもあるよというのが、ちょっと膨らませてあげられるのは本屋の役目」

一方、自ら地方へ足を運ぶ、こだわりの書店を見つけました。

北海道十勝地方の大樹町の牧場です。小さな本屋さんが姿を現しました。

長谷川彩さん(35)
「きょうは絵本と自然に関する本、こっちが食とか暮らしとか季節感のある本」

店主の、長谷川彩(さい)さん(35)。2020年、東京から大樹町に移住してきました。

大型書店での勤務経験などを生かし、2021年から始めたのが移動書店「月のうらがわ書店」です。

十勝とオホーツク地方を中心に週に1日~2日度開店。

出店場所に合わせて、並べる本も変えています。

「これなんですか?」
「箱の中に2冊入っていて、八雲の木彫りのクマの解説と、木彫りのクマづくりの講習のテキスト」

この日は、サウナ・自然・ロシア料理・クマ…10畳ほどの広さに、150冊の選りすぐりの本が並びました。

長谷川彩さん(35)
「人生ずっと本に助けられて今まで生きてきた。本に対して恩返しがしたい。目の前にいるお客さんを大切にすること。一冊一冊を大事に売ること」

2週間後。満月の日に間借りしたのは、北海道幕別町のカフェです。本を買うことも、読むこともできる、特別な夜になりました。

利用者
「予期せぬ出会いとか自分では見つけてこれないような本が本屋さんには絶対ある、移動の本屋さんがいてくれることが本当に心強い」

長谷川彩さん(35)
「本と出会うきっかけがないというのはすごくもったいない気がするので、私がいろんな場所に出向いて良質な本と出会いを作るきっかけになれば」

再び、留萌ブックセンターです。

留萌市内唯一の書店の13周年を祝う、お祭りが始まりました。

ヨーヨー釣りです。

「お~じょうずじょうず」

市民(80代)
「うちの夫も(この店は)大好きで。夫は5年前に亡くなったんですけど、きょうもちらっと(祭りを)のぞきにきたような感じがしています」

スマホでポチっとするだけで、手元に本が届く時代になったからこそ、本の手触りと出会いにこだわり続ける人たちがいます。

今拓己 店長(75)
「今もう全国的に、本屋のない町がどんどん増えていって、(留萌の)一軒をなんとか、維持していかなきゃ。本屋のない暮らしってのは味わいたくない」

《補足データ》
書店が市町村に一軒もない比率が北海道よりも高い都道府県を調べてみました。
沖縄、長野、奈良など、比較的面積の広い県が多いことがわかります。
1)沖縄56.1%
2)長野53.2%
3)奈良51.3%
4)福島47.5%
5)熊本46.7%
6)高知44.1%
7)北海道42.5%

文化の発信拠点として「マチに書店がある風景」を守ろうとこの春、国もプロジェクトチームを立ち上げています。

地方の書店を残すための新たなビジネスモデル=知恵が求められています。

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