近年、学校や自宅以外にも、子どもたちが安心して過ごすことの出来る「第3の居場所」を作る動きが、全国的に広がりつつあります。
いったいどんな場所で、どんな取り組みを通して、子どもと関わっているのか。
去年、相次いで出来た北海道内の現場を取材しました。
旭川の北海道教育大学にやってきた親子が向かった先は、学生と子どもを結ぶ団体『えんぴつとはし』。北海道教育大旭川校の教員や名誉教授など、9人が運営する団体です。
毎月第2、第4月曜日に、ボランティアの学生とともに、子どもたちを迎え入れ、勉強を教えたり、食事をともにとったりしています。
午後4時。この日集まった78人の小中学生たちは、席に着くと早速、自分たちが持ってきた宿題や、テキストを広げます。
女子学生「“とう”って何?」
子ども「あっ、10だ!」
学生「9より10のほうが“数が多いよ”って言っているの」
気兼ねなく、分からないところを質問できる、貴重な時間です。
女の子(小学5年生)「国語の漢字が分からない時に、優しく教えてくれて、楽しかったです」
男の子(小学6年生)「とても楽しく勉強できてよかったです!また来たいです」
将来、教員を目指す学生も、この時間を大切にしています。
男子学生(大学1年生)「(勉強を)教えた時に、ありがとうと言ってもらえたり、何より元気を分けてもらえたりすることが、やり甲斐だと思っています」
女子学生(大学4年生)「いろいろ子どもとお話したり、お勉強したりすることができて、毎回学びに繋がるなと思っています」
この活動に意義を感じているのは、子どもや学生だけではありません。
保護者「親が教えると、どうしてもイライラしたり…」
「自分のころのやり方と今のやり方は違うので、将来、先生を目指されている人たちに教えてもらうのは、すごくありがたいことだと思います」
午後5時すぎ。1時間ほど勉強したあとは、夕食の時間です。この日は、用意された4種類の弁当から好きなものを選びます。
女の子「思ったより美味しかった」
(Qきょうはどんな勉強一緒にやったの?)
女の子「筆算の足し算と引き算。難しかったけれど、やり方わかってできた」
一部は、地元の弁当店から無料で提供されたものです。
宅配給食いちご配食センター 林健太郎さん
「制限なく子どもたちを受け入れるというのが、すごいなと思ったので、少しでも援助できればと提供しています」
『えんぴつとはし』は事前に申し込めば、小学生や中学生なら、人数の制限なく、誰でも無料で利用できます。
北海道教育大学旭川校 高橋一将准教授
「“鉛筆”と“箸”を子どもたちに提供することで、彼らの将来に“橋をかけたい”という気持ちもありますし、その子どもたちが、場合によっては、社会の端にいる場合もある」
「そういった子どもたちに対して“鉛筆”と“箸”で、将来に結び付けてあげたい」
旭川市の調査によりますと、子どもが1人で夕食を食べる家庭は、両親がいる世帯で7.8%。
母子世帯は10.6%なのに対し、父子世帯では16.7%と、約2割にのぼりました。
旭川市 子育て支援課 香川秀頼課長
「さまざまな事情がありまして、夕食を一人で食べなければならない子どもがいるのは、十分承知しておりますけれど、われわれだけでは、手の届かないところに、手差し伸べて頂いているということで、非常にありがたく思っています」
“子どもの孤立化を防ぎたい”という思いで、居場所を作る団体は、北海道内各地で増えつつあります。
札幌市中央区にある、障がい児向けの絵本も取り揃えている『ふきのとう文庫』です。
図書館に併設された多目的室で『ふきのとう・こどもクラブ』は、日曜日から水曜日に活動しています。
対象は、幼稚園児から高校生までと幅広く、子どもたちは宿題をしたり、本を読んだりと、自由に思い思いの時間を過ごします。
女の子(小学3年生)「宿題もちゃんと出来て、家でやらなくて済むなって」「何より、ここで友だちがたくさんできたのがいいなって」
『ふきのとう・子どもクラブ』では、夕食ではなくおやつを食べるカフェタイムがあります。利用料はかかりません。
保護者「“第3の場所”っていうのは、すごくありがたい」「同じように思う親はたくさんいると思うので、いろいろところに出来てくれたらなと思います」
『ふきのとう・こどもクラブ』の運営費は、日本財団からの寄付で賄われています。しかし、いまの状況を維持していくには、不安が残ります。
『ふきのとうこどもクラブ』 星野康さん
「今後そういうの(寄付)がなくなった時に支えていく、財政的な基盤とかがちょっと心配かなと思います」
北海道旭川市で活動する団体『えんぴつとはし』も、企業や市民から寄付金や食料品の提供を受けながら、運営しています。
無料で居場所と食事を提供している分、運営は厳しい状況です。
北海道教育大学旭川校 高橋一将准教授
「悔しいが、お金がないと出来ないんですよ。お金だけがすごく難しいことだなと思っているんですが、一緒に未来を作っていける人が増えていったらいいなと思いながら、踏ん張っています」
それでも続けるのには、共通する思いがあります。
北海道教育大学旭川校 高橋一将准教授
「地域の子どもたちに、すごくいい効果があると思います、新しい居場所が出来て。いろんな方向から素晴らしい教育に対して開かれた場所になればと思っています」
『ふきのとうこどもクラブ』 星野康さん
「居心地がよくて、安心できる場所にしていきたいなと思っている」
運営者たちは、子どもの孤立化を防ぐため、これからも“第3の居場所”を作り、地域と子どもを結び続けます。
堀啓知キャスター)
ご紹介した2つの施設は2023年開設され、すでに多くの子ども達が利用しています。
森田絹子キャスター)
札幌でたくさんの絵本を取り揃えた『ふきのとう・こどもクラブ』を支援している日本財団は、2016年から全国で“第3の居場所”の開設支援を始めました。
2020年は、コロナ禍の影響で開設数が少ないですが、ここ数年で開設数が増えているのがわかります。
堀啓知キャスター)
一方、旭川で活動する『えんぴつとはし』のように、地元企業などの支援を受けながら運営している団体もあるようです。
ちなみに2024年の運営費は170万円ほどかかっているということで、こうした活動をどう支えるかが大切になります。
“第3の居場所”を作った団体に運営をぜんぶ任せるだけでなく、私たちが地域とともに、子どもたちが安心して過ごせる場所を支えていく必要があります。