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「刑務所に入っても何も変わらない」万引きを繰り返す認知症高齢者 再犯防止に必要な“入口支援”とは?札幌の高齢者施設の新たな取り組み

北海道放送 2024年11月23日 8時41分

『49.3%』。摘発された高齢者の犯罪のうち、窃盗が占める割合です。軽微な犯罪を起こした高齢者をどう処遇するかが、大きな課題になります。

一般の高齢者も入居する札幌市の施設では、刑罰ではなく、福祉で支えることを理念に、犯罪を起こした高齢者も積極的に受け入れています。

北海道札幌市白石区にある施設。一見すると、普通の高齢者施設です。

Aさん(81)
「おはようございます」

両手にたくさんのごみ袋を持って部屋を出るのは、約1年前に入居した81歳の男性、Aさんです。

施設のごみ出しを毎朝行うAさんは、職員たちからも頼りにされています。

このAさん、過去に万引きを繰り返していました。その原因は、“認知症”。

自分のやったことがわからないと話すことも多くあります。

(ここに来たのはなぜか覚えている?)
Aさん(81)
「…なんで来たかな」

(店で何したか忘れた?)
Aさん(81)
「なんかとった?違う?今度したら牢獄…」

この施設は、Aさんのような法律を犯した人も受け入れる、“入口支援”を行う施設です。

障害者や認知症などの人が事件を起こし、不起訴や執行猶予などの判断が出た際に、再犯防止のため、福祉につなげる支援です。

刑務所などで更生を図る出口支援に対し、“入口支援”と言われています。

Aさんを受け入れたこの施設を運営する代表の石田幸子さんです。

石田さんは、認知症の人の再犯防止には、「刑罰より福祉が必要だ」と話します。

触法者の支援をする「アルワン」 石田幸子社長
「刑務所に入っても何も分からない。何も変わらない。決まりが守れなくて、刑期が決まっているのに出られない。そういう人を入口で支援しようと」

施設に来る前の2023年1月、認知症を発症していたAさんは万引きをしてしまい、裁判で執行猶予判決が下りました。

しかし、その後も再犯してしまいます。

この時すでに、出口支援を行なっていた石田さんに声がかかりました。

「福祉につなげることがAさん自身に必要だ」と考えた石田さんは、裁判で施設に受け入れることを証言しました。

こうして、Aさんの今の生活が始まりました。

Aさん(81)
「手だってこれ、(肌が焼けて)真っ黒だよ。自転車乗るからね。すごいでしょ。(ハンドルを握る)ここだけ白い」

Aさんの日課は、自転車での散歩。81歳とは思えない脚力です。

実はAさん、施設に来てからも、何度か万引きをしてしまいました。

施設はチラシを配り、地域の人に協力してもらえるよう説得しました。

認知症の人を犯罪者にするのではなく、周りの目で守っています。

自転車に乗るAさんに記者がついて行きますが、置いて行かれてしまいます。

記者
「すみません。待っててくれて、ありがとうございます」

自転車が大好きだというAさんですが、一時期、迷子になってしまうことも。

取材していたこの日、1時間たっても施設のまわりで姿が見えませんでした。

すみれの花 西田和弘 施設長
「自転車に電話番号、住所などすべて書いてある」

Aさん、無事に帰って来ました。

(どこら辺まで行っていた?)
Aさん(81)
「この辺ぐるっと…」

その翌日は、あいにくの雪。

(大好きな自転車は?)
Aさん(81)
「乗らない。雪だからダメ」

大好きな自転車も断念。

すみれの花 西田和弘 施設長
「夏だと午前3時半、4時とかに出て行く。朝ごはんにいない。どうしたのかなって思っていると、午前8時ごろに石狩の消防署や、小樽の警察、定山渓、新千歳空港を越えて奥まで」

そこには、遠出する理由がありました。

(妻に会いたいですか?)

Aさん(81)
「顔見たいよね。妻がいれば一番いいけど」

遠く離れて暮らす妻に会いに行こうとしたのです。

しかし、認知症のため、全く違う方向に行ってしまい、何度も交番へ。

すみれの花 西田和弘 施設長
「高速道路を使って迎えに行き、高速道路で帰るのを2023年の夏の間はずっと」

1日の終わりにビールを飲むのが楽しみなAさん。

「夫に飲ませてほしい」と、Aさんの妻の仕送りで買ったものです。

Aさん(81)
「ビール飲めるのが一番うれしい。よかったな、よかったなって」

すみれの花 西田和弘 施設長
「もう(店に)行かなくていいね」

Aさん(81)
「あーおいしい。おいしいですよ」

Aさんは、この日一番の笑顔で、ビールを味わっていました。

そんなAさんにとって、この施設とは…。

Aさん(81)
「きょうはよかった。ここに来ているときはすごくいい」

(来年の目標は?)
Aさん(81)
「体悪くならないように頑張る。それが一番」

触法者の支援をする「アルワン」 石田幸子社長
「この人を『刑務所に入りなさい』と言って変化があるのか。認知症なのに」

触法者の支援をする「アルワン」 石田幸子社長
「何が何だか分からなくて、(裁判所で)腰縄で出てきて当事者の席に座って、裁判長が(話を)聞いても答えられない。そういう状態で裁判をするのは本当に必要なのか」

Aさんのように法律に触れてしまった人でも「誰でも受け入れる」と話す石田さん。

石田さんたちの活動が、福祉の力で再犯防止につながっていることを証明しています。

《森田絹子キャスター》
今回の放送にあたりAさんのご家族から、Aさんのような認知症の方の支援に今後つながるならという思いから、取材にご協力いただきました。

取材では認知症高齢者の支援の難しさも見えてきました。

この施設では、地域の店舗へ協力を求めるチラシを配ることで見守りの目を広げたり、万引き意識をなくすために、事前に本人に飴玉や飲み物を渡して満足してもらうなどの対応しました。今は、Aさんは万引きをしなくなったということです。

《堀啓知キャスター》
紹介した施設のような一般的な高齢者施設には、「公的支援」はありません。

こうした“入口支援”をどう支えていくのかは、私たちの今後の大きな課題です。

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